支度を終えた美月の恰好は、緋色の袴と白衣の上に千早と呼ばれる白い羽織のようなものを着て長い髪を頭の高い位置で結んでいて、まさに巫女という感じだった。


「お待たせしました」


「じゃあ行こう。俺の前に乗ってくれ」


後方への警戒もしなければならないため、美月を包み込むようにして狼に乗り込んだ良夜は、美月のうなじについ視線がいってしまって咳ばらいをした。


「この手綱は?」


「飛ばすから振り落とされないように狼の鼻に轡をしてある。痛くないらしいから気にするな」


良夜が手綱を握ると、美月も同じように手綱に手を添えた。

真っ白な肌はきめ細やかで、噛みつきたい欲望に襲われながら狼を上空に走らせた。


「数時間後には高志に着くが、辺りを探りたいから下に下りて歩く。山道は得意か?」


「故郷は田舎でしたのでどうということはありません」


「そうか。…ところで俺の親父にまた頬を赤らめていたが、どういうことだ?」


自分自身それに気付いていた美月は、口ごもりながら俯いた。


「だ、だって…主さまは夢に出てくる方によく似ているので…」


「ふうん、俺だってもうちょっと歳を取ればあんな感じに……いや、ならないか」


良夜はどう見ても中性的な容姿であり、父は一見冷淡に見える容姿で共に突き抜けた美貌ではあるが、対照的だ。

思わず父と自分を比べてしまった良夜は、美月の腰をぐいっと抱き寄せて自分に寄りかからせるようにすると、不機嫌な良夜を察した美月は嫉妬しているのを隠さない良夜に喜びを感じてしまって身体を預けた。


「良夜様も…その…素敵ですが…」


「取ってつけたように言われても嬉しくない。…俺に惚れない女なんかお前がはじめてだ」


「自信過剰は身を滅ぼしますよ」


――もうほとんど惚れているようなものだが、素直ではない美月はつんと顔を逸らしてしまってそれを後悔しつつ高志に向けて快調に進んでいた。