唇が首筋を這う感触は、はじめてのものだった。

せめてもの抵抗にと覆い被さっている良夜の胸を押してみたが、びくともしない。

その肌は燃えるように熱く、思わず声が漏れてしまうと牙が疼いた良夜は美月の肩に柔らかく牙を突き立てた。


「良夜、様…」


「明、だ」


ひそりと耳元で囁かれた後今度は耳たぶを齧られてまた声を上げてしまい、良夜の指が肩口から入って浴衣をずらし始めたため、さすがにその手を押し止めて上ずった声で良夜を制した。


「お願い…これ以上はもう…」


「…そんな潤んだ声で言われても止められる自信はない」


「私には待っている方が…」


「それは俺のことなんじゃないか?」


――そうであったらいいのにと思ったのは事実だ。

惹かれる心は最早無視することができず、物心つく前から自分にはきっと生涯に一度しか経験できないような恋をする相手が居るのだという確信があった。

だからこそ今まで誰にも心と身体を委ねることなく生きて来たというのに。


「それは自惚れというもの…」


「そうか?…じゃあ今日はこれで止めておく。俺も気持ちを整理したい」


「は、離して…」


「止めておくとは言ったが、このまま寝るつもりではいる。道中こうして毎日寝るつもりだから今の内から慣れておけ」


驚きのあまり言葉を失ったのをいいことに腕の中に抱き込んだ良夜は、美月の胸の感触と谷間に今夜は眠れるだろうかと不安になりながらも美月を離さなかった。


「親父が何か隠しているのは気になるが、ひとまず俺たちは雨竜を無事に連れ帰ることだけを考えよう」


「ええ…分かりました」


そして見つめ合うと、当然のようにまた唇を重ね合って優しい腕に抱きしめられた。