近々に代替わりが行われる予定の良夜は、日々忙しい。

夜は百鬼夜行について行ってその細腕からは想像できない力で向かって来る者を倒し、優美な美貌はその時ばかりは嬉々として鬼気迫る表情になって、父の代の百鬼たちにこの次代の主について行こうと思わせていた。


「親父、幽玄町の神社に着任するはずの奴が来てないんだって?」


「ああその件か。再三呼び出してはいるんだが来ないんだ」


「どんな奴だか知っているのか?」


「鬼族の女という情報しかないんだが…どうやら曰くつきらしい。変わり者で、人のような暮らしを送るのが好きなんだと。とにかく美しい女らしい」


へえ、と気のない相槌を打った良夜だったが――相談役が女だと知って、少し顔つきが変わった。

父はそれを横目で一度ちらりと見て、また文に目を落とした。


「俺の名代として見に行ってくれ。そしてここに引きずり出して来い」


あからさまに嫌そうな顔をした良夜に対して、父は鼻で笑って目を伏せた。


「お前は何かを求めているんだろう?気になるなら行って来たらどうだ」


「…」


美しい女が傍に居る夢をよく見る。

目が吊った気の強そうな女で、からかうとすぐむきになってつんつんして――

それでいてこちらが冷たくするとすり寄ってくる…そんな女が、居たと思う。


「狼、お前もついて行け」


「あいよ」


まだ行くとも返事をしていなかった良夜だが、父の名代とあっては無下に断るわけにはいかない。

そして自分が当主となった時に見知らぬ者が幽玄町の妖の相談役に就いているなど許せないことだ。


「分かった。明日行ってくる」


「頼んだぞ」


「いい女か」


ぼそりと呟いて、父を笑わせた。