その後なんとなく美月と顔を合わせずらくなった良夜は、美月が神社へ入ったのを見届けてから泉に向かった。


「全く…どうして俺がこんなこそこそしなきゃならないんだ」


「あ!来た!来た来た!」


良夜を今か今かと待っていた雨竜がすいすい泳いで陸に上がって庭石に腰かけた良夜の足に巻き付いた。


「さっき美月がすごい変な顔してた」


「ああそれは…怒ってたんだろうな」


「?そういう感じじゃなかったけど…熱があるみたいに顔が赤かった」


…まんざらでもなかったのかなと思ったものの腹に食らった拳はなかなか強烈なもので、雨竜の首を持ってぶらんとぶら下げて目線まで持っていった良夜は、相変わらず竜に見えない蛇のような姿に首を傾げた。


「手はどうした?」


「もうちょっと大きくなったら生えてくる。兄弟みんなそうだから」


「でも頭は増えないんだな?」


雨竜の金色の目にじわじわ涙が浮かんでくると、良夜は雨竜を膝に乗せてつるつるの頭を優しく撫でた。


「すまない、不躾だったな」


「みんなみんな…俺が出来損ないだって言うんだ…。父上も母上も兄弟たちもみんな俺に優しくしてくれたことなんかない。俺だって父上みたいな頭がいっぱいあって大きくて強くなりたいのに…」


「…もしかして空を飛べたりもするのか?」


「え?うん…大きくなれば…」


「よし、気晴らしがてら遠出しよう。小さいうちに大空を飛べる経験なんかできないだろうからな」


日なたで欠伸をしていた狼の背中に飛び乗った良夜は、すごい速さで上空を飛んだ。

狼の脚力は凄まじく、雨竜は終始叫び声を上げてそれを喜んだ。


「わあーっ、速い!」


「お前が大きくなったらその背に乗せてくれ。それまでは俺が守ってやる」


人を食う系の妖でないと分かれば話は早い。

いずれ当主になった時、雨竜を百鬼として迎え入れる気だった。