千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

勝手に構えた自室を見に行った良夜は、襖を開けて新品の布団を見たり寝転んで寛いだりしていたが、洗い物を終えた美月にぴしゃりと叱られた。


「だらだら過ごしたいのであればお屋敷に戻って下さい」


「だらだら過ごすために作ったんだ。屋敷に居ると衆目があってあまり落ち着かないからな」


次期当主として想像できないほどの期待を背負っているのは想像に難い。

さらにその美貌であれば女が放っておくわけにもいかいだろうし――と思ったところでむかむかしてきて睨んだ。


「だからといって何故ここに?」


「お前とは何かしらの縁を感じる。ちなみにお前の真名は?」


ぎくりとした美月が熱い茶が入った湯飲みを机にどんと置くと、腰に手をあてて良夜を見下ろした。


「妖にとって真名は命同等に大切なもの。おいそれと教えるわけにはいきません」


「だけど俺の真名は知っているじゃないか。狡いぞ」


「あれは私がお主に直接訊いたのではなく間接的に知ってしまっただけということ」


…ああ言えばこう言う。

秘密の多い美月は良夜の目に神秘的に映っていた。

まだ肌を見たことはないが、その身体にも何かしらの秘密がある――何故かそういう直感が働いていて、いつか絶対見てやると決意。


「で、雨竜は九頭竜の子だったな。頭はもう生えてこないのか?」


「生えてはこないでしょう。ですがしつこく追い回されたとのことなので、まだ捜索されているかもしれません」


「ふうん…百鬼になれば守ってやれるが…あいつは人を食う系の妖なのか?」


頬に手を添えて考えた美月は、すぐ首を振って目を伏せた。


「本来は人に敬われる存在。水神として崇め奉られ、今も畏敬の存在であるはずです。…それと…」


「それと?」


雨竜に興味を持っている良夜は恐らく九頭竜にまつわる話を調べるだろう。

そうなれば何故あの時隠したのかと問い詰められる可能性があり、なるべくそれを隠したかった美月は、俯いたまま口ごもりながら白状した。


「縁を結ぶ神としても…知られていますね…」


「ふうん?」


――明らかに興味を持たれている相槌に、顔が赤くなった。