千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

まず雨竜を泉に帰した後、思わずいそいそとした足取りで新築の家に足を踏み入れた。

最初に向かったのは台所で、いくつもの大きな水瓶には新鮮な水がすでに溜められていた。

次に見に行ったのは風呂場で、実は――ちゃんと浴槽で風呂に入った経験が数えるほどしかない美月は、熱い湯が張られた檜風呂に思わず普段上げない歓声を上げていた。


「わぁあーーーーっ」


すかさず勝手口から外に出て風呂場の方へ回り込むと、そこには薪がうず高く積まれていた。

窯は新しく、後ですぐ入ろうと決めて良夜が言っていた食糧庫へ行くと、十畳ほどの食糧庫は鉄で作られていて密閉性が高く、さらには大量の保存食や新鮮な魚や肉があり、また美月は――


「わぁーーっ」


童のように歓声を上げてはしゃぎ、すぐさま踵を返して風呂場へ行くと、狭いが脱衣所があり、そこで巫女装束を脱ぎ散らかして湯で軽く身体を洗い、ざぶんと飛び込んだ。


「何これ…気持ちいい…っ!」


――普段は形式ばった話し方を心掛けているため、このように素を見せたことは誰にもない。

里に居た時は水も貴重品だったので、少量の水を温めて身体を拭く程度。

髪なんて年中通して冷たい水で洗うしかなかったため、毎日暑い湯で身体や髪を洗えるのかと思うと良夜を拝みたくなってきた。


「…目をかけているのは私だけって言ってたわね…」


それは良い意味に取っていいのだろうか?

どうせあの遊び人のことだから誰にでもいい顔をしているに違いないと思い直した美月は、思う存分ゆっくり風呂に入り、その後質素生活に慣れすぎていたため、豪華な食糧に手をつけることができず漬物と焼き魚と白米で食事を済ませた。


「明朝に来るって言ってたわね…何を作ろうかしら…新鮮なお肉があったからあれを甘辛く炊いてみようかしら」


やっぱり、うきうき。

嘘でも目をかけていると言われて喜んでいる自分を否定できない。

ここまで尽くしてくれた礼に、これからはちょっぴり優しくしてやろう、と思った。