千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

また良夜が美月を連れ込んでいるのを見かけた父は、一度忠告をした身のため口を酸っぱくして言うつもりはなかった。

どこか達観していて未来を見通すような力のある良夜が美月に何かを見出してちょっかいをかけている――

しかも傍には蛇のような幼体の妖が居たため、口を開きかけたがそのまま見て見ぬふりをして通り過ぎた。


「夜が来たので雨竜を連れて帰ります。あの…家の方は…」


「ああ、もう済んでいると思うが、俺も見物がてら一緒に行く」


結局ついて来るのかと半ば呆れつつだが少しうきうきしてしまった美月は、咳払いをして寝ている雨竜の身体を撫でて起こした。


「さあ帰りますよ」


「俺…もうちょっとここに居たい」


「お主は百鬼ならぬ身。ここに居ては何をされるか分かりません。連れて帰ります」


断固とした口調できっぱり言い放った美月は、雨竜を丁寧に腕に抱いて立ち上がった。


「さあ連れて帰ってもらいますよ」


「いちいち偉そうに」


そう言いつつも良夜は相変わらず一片の怒りも見せず、狗神姿になった狼の背中に共に乗り込んで風を受けながら問うた。


「代々の相談役にもこのように目をかけていたのですか?」


「いや?お前だけ」


「…そ…そうですか…」


「今照れているな?ちょっと振り向いて顔を見せろ」


「!嫌です!顔を寄せないで!」


ぐいっと頬を押されて仰け反った良夜は、会話を楽しむ余裕もなくすぐ神社に着き、すっかり様子が変わってしまった家を前に立ち尽くしている美月を見てにやにやしていた。


「どうだ?」


「あの…以前の家は…」


「だから全部壊して建て直した。風呂もあるし食糧庫も作ったぞ。ついでに俺の部屋も作った」


「…は!?なっ、何故お主の部屋が必要なのですか!?」


「長居するつもりだから」


――あっけらかん。

身の危険を感じた美月が自身の身体を抱きしめて良夜を睨んだが、良夜ははははと声を上げて笑ってまた狼に乗り込んだ。


「また明朝に。気に食わない部分があったら言え」


…返事をする間もなく良夜は帰ってしまい、美月は雨竜と共にぽかんとしたまままた随分立派になった家を見上げた。


「どうしましょう…」


「快適になったからいいんじゃん?」


礼に何を求められることやら――


「…助平。助平助平」


何度も呟きながら屋内へ入った。