千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

祝言の準備に時間はかからなかった。

明日香は祝言の前日に両親を呼び寄せて。皆で固い盃を交わし合った。

そして祝言の当日――黎が後生大事に葛籠に収めていた神羅の白無垢衣装をそれまでにきれいに仕立て直したものを明日香に着せると、桂は感激のあまり泣きそうになって黎に強く背中を叩かれた。


「父様…こんなに幸せでいいのでしょうか…」


「人を愛したあまりにお前も俺も不運だったな。だがようやく長い生を共にできる時が来た。次こそは桂…幸せになるんだぞ」


「はい…」


――袖で涙を拭っていた神羅は、祝言が終わると庭にひとり佇んで高まり切った胸を収めるため何度も大きく深呼吸をしていた。

黎は神羅の肩を抱いて池で口をぱくぱくさせている鯉を見ながらふっと笑った。


「あの様子だと孫の顔が見れる日も近いぞ。どうだ、俺たちももうひとり子ができるかどうか…試すか?」


「!ば、馬鹿なことを!な…ちょ…っ、人前ですよ、やめなさい!」


唇を奪おうと顔を近付けてくる黎の顔を押して首が変な音を立てた時――空から甲高い鳴き声が鳴り響いた。


高い鳴き声を低い鳴き声が混ざり合って共鳴し合い、ふたりで空を見上げると――

朱い鳥と碧い鳥がゆっくり頭上を旋回していて、黎はその正体にすぐ気付いた。


「ああ、来てくれたのか…」


「黎?」


「あれは瑞兆の証だ。神羅…息子の代は吉兆に恵まれる。俺とお前が見れなかった息子の真の幸せを、傍で見ることができる。見ろ、あの美しさを」


「ああ…本当にきれいですね…」


「お前の方が美しい。神羅…やはり試そう。ふたり目の子ができるかどうか」


「ちょ…っ!や、やめなさい、黎!きゃあーっ!」


――神羅が黎に抱えられて連れ去られる様を、桂と明日香は縁側でくすくす笑いながら見ていた。


「じゃあ次は…俺たちの番…かな?」


「うん…大切にしてね、桂」


「もちろん」


空に鳴り響く美しい音色に聞き惚れつつ、桂と明日香もまた、その場を去った。


『行ったか。俺たちの正体はばれなかったよな?』


『ばればれだ。こんなことしたと知られたら叱られるぞ』


『まあいいじゃないかこれ位。…ああ、今日はいい日だな』


朱い鳥と碧い鳥が空を舞う。

吉兆を叫び、繁栄を鳴きながら、いつまでも空を旋回して――祝福を授けた。


【完】