人は妖の前では無力な生き物だった。
故に人は食われないために妖に刃を向け、妖は人の上げる悲鳴や肉を求めて人を狩った。
両者の憎しみの炎は燃え上がるばかりで、対抗策など何もなかった。
そんな状況が変わったのは――
「れ…良夜!」
「大丈夫だからそこに居ろ」
正式に当主を継いだ黎はその夜神羅を伴って百鬼夜行に出た。
だが狼の背に乗り、肩には雨竜が乗っていて、敵の攻撃の範疇内にない場所で見守ることしかできず、大勢で向かって来る敵を屠っていく黎をはらはらしながら見ていた。
…こんな血生臭い現場だとは思っていなかった。
黎が本当に命を賭けて同朋の妖たちに刃を向けていることがとても心苦しくなって狼の背に突っ伏していると、戦いを終えた黎が神羅の背中を撫でると、顔を上げた神羅の表情を見てはにかんだ。
「何を憂いているんだ?」
「だって黎…!私…こんなつもりじゃ…」
「こんなつもりも何も、あれらは人に仇為す連中だ。人に手を挙げなければ俺だってこんなことはしない。神羅…これは俺とお前の約束が発端であり、俺の思想に共感した子らが継いでくれた意思。だからお前自身がそれを否定してはならない」
「はい…」
黎は返り血ひとつ浴びていない。
黎明としての記憶が全て戻ってからこっち、秘めていた潜在能力が全て開花してより強く、より強くなった黎の前では徒党を組んだ敵など相手にもならなかった。
「良夜!超かっこいい!」
「お前も大きくなったらこうして戦うんだぞ。早く人型になれるといいな」
「うん!」
――精一杯黎を労わらなくては。
戦いの凄まじさを痛感した神羅は、黎の手を握って目を閉じた。
屋敷に居る限りは出来うることは全てしよう。
そう心に決めて、心配させぬよう微笑んだ。
故に人は食われないために妖に刃を向け、妖は人の上げる悲鳴や肉を求めて人を狩った。
両者の憎しみの炎は燃え上がるばかりで、対抗策など何もなかった。
そんな状況が変わったのは――
「れ…良夜!」
「大丈夫だからそこに居ろ」
正式に当主を継いだ黎はその夜神羅を伴って百鬼夜行に出た。
だが狼の背に乗り、肩には雨竜が乗っていて、敵の攻撃の範疇内にない場所で見守ることしかできず、大勢で向かって来る敵を屠っていく黎をはらはらしながら見ていた。
…こんな血生臭い現場だとは思っていなかった。
黎が本当に命を賭けて同朋の妖たちに刃を向けていることがとても心苦しくなって狼の背に突っ伏していると、戦いを終えた黎が神羅の背中を撫でると、顔を上げた神羅の表情を見てはにかんだ。
「何を憂いているんだ?」
「だって黎…!私…こんなつもりじゃ…」
「こんなつもりも何も、あれらは人に仇為す連中だ。人に手を挙げなければ俺だってこんなことはしない。神羅…これは俺とお前の約束が発端であり、俺の思想に共感した子らが継いでくれた意思。だからお前自身がそれを否定してはならない」
「はい…」
黎は返り血ひとつ浴びていない。
黎明としての記憶が全て戻ってからこっち、秘めていた潜在能力が全て開花してより強く、より強くなった黎の前では徒党を組んだ敵など相手にもならなかった。
「良夜!超かっこいい!」
「お前も大きくなったらこうして戦うんだぞ。早く人型になれるといいな」
「うん!」
――精一杯黎を労わらなくては。
戦いの凄まじさを痛感した神羅は、黎の手を握って目を閉じた。
屋敷に居る限りは出来うることは全てしよう。
そう心に決めて、心配させぬよう微笑んだ。

