千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

当主の座に就く前に、百鬼との契約を済まさなければならなかった。

女の百鬼たちは黎が妻を娶ると知って以来士気が下がりっぱなしだったが、根気よく説得を続けた結果、父の代から百鬼だった者たちひとりも欠けることなく契約にこぎついてほっと胸を撫で下ろした。


そして、神羅との祝言が粛々と執り行われた。

白無垢姿の神羅はとても美しく、前世と現世で二度も愛した女の最も美しい姿を見ることができた黎は、笑みを止めることができなくなって片手で口元を覆って隠していた。


「にやにやするな。気持ち悪い」


「俺が前世でも現世でも生涯追い続けた女だぞ、にやにやする位許せ」


「祝言が終われば次は当主の座を正式に引き渡す。そうなれば毎夜百鬼夜行に出ていくことになり、神羅…いや、美月殿とは今のように会えなくなるぞ」


「そんなの会えないうちには入らない。それに俺は百鬼夜行自体全く苦じゃない。第一俺が始めたんだからな」


話しているうちに神羅が肩を叩いて疲れているのを見かけた例はすくっと立ち上がって真っ先に神羅に駆け寄った。


「執着が過ぎるというのは恐ろしくもあり羨ましくもある」


「主さまは転生しても私たちとまた夫婦になりたいとは思って下さらないのかしら」


ふたりの妻にじわりと非難された父が愛想笑いを浮かべている頃、黎は神羅とふたり静かな客間に移って盃を傾けていた。


「当主になったら俺は毎夜屋敷を留守にする。お前との約束が今どんな効果をもたらしているのか教えてやる」


「黎、私もついて行ってみたいわ。いいでしょう?」


「いや、だが…うーん…」


「私はもう人ではないのよ。鬼なんです。丈夫だし意外と強いのよ。ねえ連れて行って」


甘えた声でおねだりされると拒絶できるわけがなく、黎は神羅を膝に乗せて庭から見える月夜を見上げた。


「じゃあ一緒に行こう」


どこまでも、一緒に。