千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

その後、黎は狼と雨竜に前世でのことを全て丁寧に話した。

雨竜は終始ぽかんとしていたが、狼は合点がいったという感じで頷いて黎の脇に鼻面を突っ込んで笑った。


「そっか、それでなんか懐かしかったのか。俺の祖先たちは長い間良夜様に仕えてんだなー」


「ありがたいことだ。玉藻はどこかへ行ってしまったようだが、またどこかで会うこともあるだろう」


「ねえ良夜、それで何か変わったのか?なんにも変わらないんだよな?」


「何も変わらない。だからお前も変わらず接してほしい」


「うん!」


話を終えた黎は、縁側で母たちと談笑していた神羅の腕を引っ張って立たせると、庭を歩きながら今後の話をした。


「祝言だが、どうせお前は派手なのが苦手だろうから慎ましやかにやる。それでいいな?」


「え、ええ…。黎…本当に私ひとり…」


「確認しすぎだぞ。妻はお前ひとり。あと現世でのお前の両親も呼び寄せよう。神羅…」


飽きもせず、神羅の腰を抱いて抱きしめた黎は、嬉しそうに頬を赤らめている神羅の顎を取って上向かせると、頬にかぷりと噛みついた。

鬼族にとっての愛情表現――前世ではなんと奇妙な方法なのだろうと思っていた神羅だったが…今なら分かる。

今も黎に噛みつきたくて仕方なくて、黎の細い指に牙を立てて噛みついた。


「おい、本気で噛んだな?やられたらやり返す。覚悟しろ」


神羅を蔵に連れ込んだ黎は、畳の上に押し倒して覆い被さった。


「俺は前世で長い間ここに籠もった。お前を想いながら何度も苦しんで…」


「黎…黎明…」


黎の息が首筋にかかり、頭を抱きしめた神羅は目を閉じてさらさらの黒髪を撫でた。


「ありがとう…。私今、とても幸せよ。黎…ねえ、ここで抱いて」


「無論そのつもりで連れ込んだ」


ふたり吹き出して、縺れ合った。