前世は帝という立場だった神羅は、御所に行けると聞いて少し嬉しくなってしまった。
そして前世の頃から現在までまだ伊能が仕えてくれていると知ると、現伊能の若い男の手を握って何度も頭を下げた。
「お主の祖が居なければ私は黎と夫婦になることも叶いませんでした。本当にありがとう」
大怪我を負った時――黎と夫婦になった時…伊能は人だった神羅のために食材を毎日調達してくれたり怪我の治療をしてくれた。
感極まって手を握り続けていると、黎が手刀を振り下ろしてその手を叩いた。
「その辺にしておけ。伊能がきょとんとしているじゃないか」
事情が分からず苦笑いしている伊能に後で訳を話すと言って神羅を奪った黎は、雨竜と共に庭を転げ回っていた狼を呼び寄せてふかふかの耳を撫でた。
「狼、お前にも話さないとな。神羅、狼は牙の子孫なんだ」
「ああそれで…何やら懐かしいと思っていました」
「神羅…神羅…?俺、なんかその名を知ってるなあ、なんだったかな…」
「後でゆっくり話そう。狼、御所に行きたいんだ。伊能が話をつけてくれているから連れて行ってくれ」
「良夜!俺も!」
腕に巻き付けるほど小さくなった雨竜を肩に乗せた黎が神羅と共に狼の背に乗り込み、空を駆けた。
御所はあれから何も変わっていない。
神羅が帝として起った時に建てられた神社は健在だったが使う者がなく、ただ祭壇があるため壊すこともできず今も建っていた。
「ああ…懐かしい…」
現帝が朝議に出ている時間を選んで庭に降り立った黎は、伊能の手引きで人ひとりいない庭で神羅と神社を見つめた。
「俺たちが出会った場所だ」
孤独で神社に籠もって祈ることしかできなかった日々を思い出した。
そしてはじめて、黎に抱かれた場所だ。
「黎…中に入りましょう」
狼と雨竜に見張りを頼み、懐かしき場所へ足を踏み込んだ。
そして前世の頃から現在までまだ伊能が仕えてくれていると知ると、現伊能の若い男の手を握って何度も頭を下げた。
「お主の祖が居なければ私は黎と夫婦になることも叶いませんでした。本当にありがとう」
大怪我を負った時――黎と夫婦になった時…伊能は人だった神羅のために食材を毎日調達してくれたり怪我の治療をしてくれた。
感極まって手を握り続けていると、黎が手刀を振り下ろしてその手を叩いた。
「その辺にしておけ。伊能がきょとんとしているじゃないか」
事情が分からず苦笑いしている伊能に後で訳を話すと言って神羅を奪った黎は、雨竜と共に庭を転げ回っていた狼を呼び寄せてふかふかの耳を撫でた。
「狼、お前にも話さないとな。神羅、狼は牙の子孫なんだ」
「ああそれで…何やら懐かしいと思っていました」
「神羅…神羅…?俺、なんかその名を知ってるなあ、なんだったかな…」
「後でゆっくり話そう。狼、御所に行きたいんだ。伊能が話をつけてくれているから連れて行ってくれ」
「良夜!俺も!」
腕に巻き付けるほど小さくなった雨竜を肩に乗せた黎が神羅と共に狼の背に乗り込み、空を駆けた。
御所はあれから何も変わっていない。
神羅が帝として起った時に建てられた神社は健在だったが使う者がなく、ただ祭壇があるため壊すこともできず今も建っていた。
「ああ…懐かしい…」
現帝が朝議に出ている時間を選んで庭に降り立った黎は、伊能の手引きで人ひとりいない庭で神羅と神社を見つめた。
「俺たちが出会った場所だ」
孤独で神社に籠もって祈ることしかできなかった日々を思い出した。
そしてはじめて、黎に抱かれた場所だ。
「黎…中に入りましょう」
狼と雨竜に見張りを頼み、懐かしき場所へ足を踏み込んだ。

