良夜と別れた美月は、ひとりぽつんと祭壇の前に座っていた。

…自ら記憶を封印していると言われてそれは何のためにと自問していたが…何も得られないまま良夜のことばかり考えて、我が身の振り方を思った。


「私のことは好いてくれているけれど…妻は無理ね。立場が違うもの。やっぱり…妾…」


良夜が自分以外の女と仲睦まじくしている姿を想像すると、胸が抉れるように痛くなった。

そんな良夜の傍で笑顔でいられるかというと…正直自信がなくて途方に暮れた。

そして何故か…そういう場面に遭遇したことがあった気がして、やはり自分はどこかおかしいのだと実感して、良夜の言う通りに自らの内面に問いかけることにした。


「深く…深く…」


大きく深呼吸をして座禅を組むと、今まで意識的にしていなかった瞑想を行った。

そうして自ら内側に入り込んでいくと――とても暗くて深い場所にうずくまっている者が…いや、あれはもうひとりの自分だと気付いた美月は、そっと傍に寄り添ってその肩を抱いた。


「お主は…私なのですか?」


『…』


「それとも……神羅…?」


『……』


こくん、と小さく頷いた。

度々白昼夢や夢に現れては何かを訴えかけてきた正体が神羅だと分かっていた美月は、顔を上げた神羅が自分と全く同じ顔をしていることに小さく笑んだ。


「私に何か伝えたいのでしょう?もう逃げませんから、分かち合います。私は誰?私は何?私は…」


――神羅が真っ白な手でそっと手を握ってきた。

雷鳴に撃たれたかのように頭のてっぺんからつま先まで痺れるような感覚に陥った美月が意識を失うと――神羅はその身体を支えてぎゅっと抱きしめた。


『お主は私…私は、お主よ…』


現実での美月は倒れ伏し、神羅の記憶が一気に流れてきて――自らの正体を、知った。