千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

遅れて到着した黎の息子は黎たちの両親――つまり祖父母たちによってもみくちゃにされた。

彼らにとっては鬼八の封印を担ってくれる大切な存在であり、黎にとっては百鬼夜行をも引き継いでくれる跡取り息子だ。

期待が重たい分、その重さに耐えられるのかと思ったが――

澪に似て楽観的な気性の息子はそれらをちゃんと受け止めつつ、発奮方法も発散方法も知っていて内にため込むことはなかった。


「鬼八は成仏しないんでしょうか」


「そんなことは試したことがない。年月が経つうちに封印が薄まり、鬼八の怨念が漏れ出して被害が出る。我々は唯一鬼八を封印せしめる力を持っている。もし封印できなくなったら…この国は終わるだろうな」


祖父の淡々とした口調に身震いした黎の息子は、ぐびぐび酒を飲みながら掌を見つめた。


「いつか成仏させられる時が来るといいですね。何かしら方法がありそうな気がしますが」


「我が家は鬼八に受けた呪いにより一子相伝となった。それを悔いる古文書も蔵にあるぞ。見ていくか?」


「はい」


黎はそんな会話を聞きながらうとうとして身体が揺れ始めていた澪の肩を抱いた。

長い距離を移動したため疲れていた澪を抱き上げると、見上げて来た彼らに笑いかけた。


「澪を寝かせてくる」


そう言って部屋を出た後、黎の息子はやや冷淡に見える美貌に笑みを履いた。


「ようやく母様が幸せになれる時が来ました。もうひとりの母様には悪いとは思っていますが…あのふたりには転生してまた出会うという約束がありますから、今くらいいいですよね」


「あれの神羅に対する執着は凄まじいからな、誰に似たんだか」


「あなたにですよ」


ふたりの妻にぼそっと呟かれた黎の父は肩を竦めて酒を呷った。


「皆が幸せになれるよう願っている。ところでお前は好いた女は居ないのか?」


矛先が自分に向いてしまって苦笑した黎の息子は、その後散々絡まれて、幽玄町に帰るまで絡まれ続けて黎と澪に笑われた。