良夜の息子は、正式に百鬼夜行を受け継いだ。

もしかしたら自身の代で終わるかもしれないと思っていた百鬼夜行を息子が受け継いでくれたことで、良夜は双肩に乗っていた重荷が軽くなって、小さな笑みを零した。


「父様ご安心下さい。俺の代でも終わらせませんよ。父様の話を語り継いで行きます。だから父様もちゃんと物語として綴っておくべきですよ」


「そう…か?」


「そうですよ。いくら裏切り者だとそしられようと、父様が築き上げてきた信頼と基盤は揺るぎありません。俺も妻を娶り、子を作って、その子が百鬼夜行を継ぐんです。その時父様が書いた物語を見せてあげて下さい。俺も書きますけど、百鬼夜行をはじめた父様の話が一番胸にきますから」


――できた子だ。

父親らしいことはほとんどしてあげられなかったけれど、それでもこうして信頼してくれて、日々戦う道を選択してくれた。

黎は息子の進言通り、百鬼夜行を始めた理由を綴る物語を書くことに決めた。


「ねえ黎さん、その物語には私も出てくる?」


「もちろん。お前や神羅抜きでは書けない」


「黎様、私も出てきますわよね?」


「そうだな、玉藻や牙も省くことはできない。お前たちが俺を助けてくれたから、今の俺が在るんだ」


うるっとした玉藻が黎に抱き着くと、それを引き剥がした牙はにかっと笑って豪語。


「ちなみに黎様、旅に出るんだろ?悪いけどそれ、俺たちもついてくから」


「えっ」


思わず声を上げた澪だったが、玉藻と牙にはすでに子が居り、百鬼として黎の息子の傍に居る。

まあそれも楽しいかと楽観的な性格の澪はふたりの手を握って笑った。


「じゃあみんなで行こ。どこにしようかな、あったかい所がいいかな」


「お前が行きたい所ならどこでも」


黎の表情は穏やかだった。

その顔が見たくてたまらなかった澪は、腕に抱き着いて目を閉じた。