澪は立派に成長した息子と共に百鬼夜行に向かった黎を見送り、ふたりで団子を頬張っていた。


「ねえ、さっき黎さんと話したんだけど、黎さんが引退したら私たち旅に出ようと思うの」


「え…っ、俺をひとりにするんですか?」


「すぐにってわけじゃないよ?もうそろそろ大丈夫かなーって思ったら、さーっと居なくなるからね」


乾いた笑いを浮かべた息子の美しい横顔をじっと見つめた澪は、その肩にこつんと頭を預けて神羅の命日を想った。


「私ね…もうずっと神羅ちゃんには永遠に勝てないの」


「…もうひとりの母様の話ですね」


「うん。黎さんは神羅ちゃんを愛しすぎるあまり壊れかけてた。ううん、今も壊れ続けてるかもしれない。私は黎さんに少しでも穏やかな暮らしをしてもらいたいの。…もう、戦ってほしくない」


神羅には敵対心はなかったが、ほんの少しだけ嫉妬心は覚えていた。

自分よりも神羅を愛していることは重々承知して傍に居ることを選んだのだから、自分を一番に考えて欲しいだの我が儘を言って黎を煩わせてはいけない。

だが黎の肩に乗っている百鬼夜行と言う重荷から解放されれば、少なくとも黎は楽になれるはずだ。

それに…


「それにそろそろ黎さんを独り占めしてもいいんじゃないかなーって思ったり…思わなかったり…」


「そうですね、父様はきっと母様を大切にして下さいます。俺、早く一人前になれるよう今以上に努力します」


――それから宣言した通り、息子は鍛錬に励み、百鬼との信頼関係を深め、地盤を着々と固めていった。


黎と澪が旅立つ日も、近付いて来ていた。