黎率いる百鬼夜行はとてつもない勢力と化していた。

元々人を食わない妖や、人に対して興味を持つ妖――何も悪事を働く者ばかりではない。

人と妖の共存というとても成し得ないことを実現した黎の元には着々と賛同する者が現れて、中には珍しい種族の者も居て黎を喜ばせた。

やはり獣型の妖からの熱烈な支持が多く、屋敷の庭には絶えず狸や猫、狗、鳥――様々な種族の百鬼が揃い、それぞれが黎の関心を引こうと躍起になっていた。

だが黎の顔色が悪いと、皆は庭から離れて各自好きなように過ごす。

今日が神羅の命日だと知っている彼らは黎を慮って屋敷から離れていた。


「お帰りなさい」


待っていた息子に声をかけられた黎は、少し頷いて力なく縁側に座った。

…神羅との間に産まれた桂はとても自分に似ていたが、澪との間に産まれた息子は顔立ちは自分に似つつも笑うと澪にとてもよく似ている。

体質を引き継いだのか獣型の妖たちにも好かれて、大らかな気性でしかも強く、安心して跡を任せることができた。


「…そろそろお前に百鬼夜行を任せようと思う」


「え…っ、それは…お任せ下さい」


「任せろとか言いながら言葉に詰まったじゃないか。なんだ?」


息子はばつが悪そうにしつつ、台所の方を気にしながら声を潜めた。


「俺はまだ若輩者です。まだ父様から一本も取れてませんし…」


「いいや、お前は十分強いし、お前に足りないのは自信だけだ。俺は…ちょっとそろそろ疲れたんだ。だからお前に任せようと思ってな」


贔屓目抜きにしても、この息子は美しく強い。

ただ澪に少し似ているのか穏やかな一面があり、戦いの中に血が滾るような情熱を見出せていない。

だからこそ――そろそろこの息子にも真実を話さなければ、と思っていた。


「…お前に話したいことがある」


「急に改まって…なんですか?」


「…俺の、もうひとり居た妻の話だ」


澪とふたりで決めたことだった。

この息子が無事に成長するまで黙っていようと。

だが、話す時が来た。

黎は、静かに語り始めた。