美月たちと別れた後屋敷へ戻った良夜は、帰るなり父やふたりの母に取り囲まれて困惑していた。


「ただいま…。みんなして…どうした?」


「母たちはお前が生きて帰って来ないかもしれないと毎日嘆きむせび泣き、俺はお前の母たちを慰めながらお前の無事を祈っていた。皆生きた心地がしていなかったということだ」


父は冷淡でいて一見冷たそうに見えるが、実はそうでもなく、普段は笑顔もよく見せる。

だが今目の前に居る父はとても難しそうな顔をしていて、そして母たちも押し黙って気難しそうな顔をしていた。


「無事に帰って来たし、雨竜も生きている。ああそうだ、九頭竜一族と話をつけてきたから、もしうちに何か有事があった場合率先して駆けつけて助けてくれるらしい」


「なに、九頭竜と縁を交わしたのか?…それはすごいことだがお前…怪我はしていないな?呪いは受けていないか?」


座る間もなく問い詰められて苦笑した良夜がようやく縁側に座ると、すかさず熱い茶が出てきてそれを飲みながら頷いた。


「どこも怪我していないし呪いも受けていない。親父、帰って来て早々なんなんだが隠していることを知りたい」


――だが良夜の父はじっと黙ったままで良夜を不安にさせた。

しかし約束を反故にするような性格ではないことを知っている良夜もまた黙っていると、父は良夜の肩を抱いて頭を撫でた。


「…約束は守る。だが今日だけは俺と母たちとゆっくり過ごしてくれ。そして明日になったら…お前に全てを明かそう。お前の先見の明が一体何であるか…お前が何を求めて産まれてきたのか…全てを明かそう」


「…?分かった。俺からも話したいことがあるから親父たちに聞いてほしいんだ」


美月を妻にすることを許してもらうために。

もし許してもらえないならば、縁を切る決意もしていた。

この家の血が途絶える可能性――それも視野に入れながら、それでも美月と離れるつもりは全くなかった。