ぴかぴかにされた美月が皆が集まっていた広間に戻ると、そこに良夜の姿はなかった。

はじめて力を行使した雨竜は疲れ切って身体を一直線にして寝ているし、緑竜はひとり静かに酒を飲んでいたが、美月と目が合うと手を止めて頭を下げた。


「良夜様は湯に入られておられますので先にお部屋を案内いたしましょう」


「あ、ありがとうございます」


雨竜の実家は平屋ではあるが、奥行きがとてつもなく広く、部屋数は良夜の実家を凌ぐほどで全体像が把握できない規模のものだった。

こんな名のある一族に産まれながらもその姿形が違うだけで疎まれて追われていたことが悲しく、美月は胸を押さえながらとある部屋に案内されて、入り口で立ち止まった。


「え…っ、あ、あの…こちらは…?」


「寝所でございます。今宵はゆるりとお休み下さいませ」


――部屋には大きな床がひとつに、枕がひとつ。

それが何を意味するかは明白で、茫然としていると緑竜は美月が嬉しさのあまり立ち尽くしていると勘違いしてそっとその場を離れた。


「こ、こっ、これは…!」


良夜とはすでに何度も床を共にしているが、男女の関係には至っていない。

それでも互いの想いは確認しているし、良夜がその気になれば…突っぱねて断ることもきっとできない。

それよりも…

良夜は当主となる身で、いずれ家柄の良い娘と夫婦になって家を継ぐ役目がある。

どちらかと言えば貧しい家に生まれた自分など相手にもされないだろうし、せいぜい妾といったところか――


「妾…」


それでもいい、と思った。

良夜が妾として望んでくれるのならば、それでもいい、と――


「仕方ないじゃない…私たちは身分が違うのだもの」


床の上にころんと寝転がった美月は、いい匂いのする布団に包まれて目を閉じた。

良夜は自分に何かを望むだろうか?


逆に――

何も望まれないかもしれないと思うと怖くて、我が身を抱きしめて身体を丸めた。