「そちらの美女は奥方様で…?」
「いや、まだ違う。違うがまあ、近いうち状況は変わる」
それで心得たと言わんばかりの緑竜は、久々の実家で這いずり回っている雨竜の頭を結構な力で拳骨で殴って大人しくさせると、控えていた女たちに目配せをした。
「では床はひとつにしておきましょう」
「ん、お前は気が利くな」
ひそひそ。
男たちがひそひそ話をしている間、美月は泊まりと聞いて緊張のあまり酒をがぶ飲みしていた。
それも九頭竜一族秘伝の口から火が出そうなほどに強い酒だったため、酒豪の美月もさすがに酔いが回って頬を叩いていると、緑竜の目配せを受けて傍に控えていた女たちが美月を取り囲んだ。
「あ、あの…?」
「湯をご用意しております。私たちがお手伝いしますので、さあさあ」
「え、え、ちょ、私は結構ですっ」
「山の中を歩いたし、土砂降りの雨に降られたし、入ってきれいにして来い」
…そういえば今の自分は汗臭いかもしれない――と思い立ったと同時に猛烈に恥ずかしくなった美月がさっと立ち上がると、雨竜がついて行こうとして緑竜に止められた。
「お前は湯引きして食われたいのか?」
「ぷっ、九頭竜の湯引き…!それはたいそう美味そうだな、雨竜で試すか」
思わず吹き出した良夜だったが目がいかんせんあまり笑っていなかったため、雨竜は大人しく良夜の隣でとぐろを巻いて美月を見送った。
「で、では…行って来ます」
「俺も一緒に入ろうかな」
「駄目です!絶対駄目ですからね!雨竜、良夜様を止めておいて下さい!」
「合点だい!」
「奥方様は照れ屋なのですね」
「まだ嫁じゃないんだが…あれは鬼族にしては珍しく初心なんだ。あ、枕もひとつでいいぞ」
くすくす、にやにや。
この緑竜という男、意外と気が合う。
悋気した狼が良夜の頭を尻尾で箒のように何度も叩くと、狗神や九頭竜にもみくちゃにされた良夜は高すぎる天井を見上げながらずっと笑っていた。
「いや、まだ違う。違うがまあ、近いうち状況は変わる」
それで心得たと言わんばかりの緑竜は、久々の実家で這いずり回っている雨竜の頭を結構な力で拳骨で殴って大人しくさせると、控えていた女たちに目配せをした。
「では床はひとつにしておきましょう」
「ん、お前は気が利くな」
ひそひそ。
男たちがひそひそ話をしている間、美月は泊まりと聞いて緊張のあまり酒をがぶ飲みしていた。
それも九頭竜一族秘伝の口から火が出そうなほどに強い酒だったため、酒豪の美月もさすがに酔いが回って頬を叩いていると、緑竜の目配せを受けて傍に控えていた女たちが美月を取り囲んだ。
「あ、あの…?」
「湯をご用意しております。私たちがお手伝いしますので、さあさあ」
「え、え、ちょ、私は結構ですっ」
「山の中を歩いたし、土砂降りの雨に降られたし、入ってきれいにして来い」
…そういえば今の自分は汗臭いかもしれない――と思い立ったと同時に猛烈に恥ずかしくなった美月がさっと立ち上がると、雨竜がついて行こうとして緑竜に止められた。
「お前は湯引きして食われたいのか?」
「ぷっ、九頭竜の湯引き…!それはたいそう美味そうだな、雨竜で試すか」
思わず吹き出した良夜だったが目がいかんせんあまり笑っていなかったため、雨竜は大人しく良夜の隣でとぐろを巻いて美月を見送った。
「で、では…行って来ます」
「俺も一緒に入ろうかな」
「駄目です!絶対駄目ですからね!雨竜、良夜様を止めておいて下さい!」
「合点だい!」
「奥方様は照れ屋なのですね」
「まだ嫁じゃないんだが…あれは鬼族にしては珍しく初心なんだ。あ、枕もひとつでいいぞ」
くすくす、にやにや。
この緑竜という男、意外と気が合う。
悋気した狼が良夜の頭を尻尾で箒のように何度も叩くと、狗神や九頭竜にもみくちゃにされた良夜は高すぎる天井を見上げながらずっと笑っていた。

