九頭竜は成体になると人型に変化できる――

そうすればあの巨体で行動するよりもかなり行動範囲は広がるということで、それを知った良夜はかなりご機嫌だった。


「良夜様、機嫌が良いのは分かりましたがここは…」


「ここは恐らく九頭竜の集落なんだろうな。妖が集まる通常の集落よりもかなり妖気が濃い。それに雨竜の父…乱青龍に跡目が居て良かった」


「俺、兄弟は沢山いるよ、だって卵から産まれるんだから。ねえ美月はいつ卵を産むの?俺があっためてもいい?」


「!な、なななな何を言うのですかっ、私は卵なんて産みません!」


「九頭竜の加護を授かれるんだから産まれて来る子はさぞかし強く美しく成長するだろうな」


緑竜が案内した九頭竜の集落のつまり実家に招かれた良夜は、隣に座っている美月の肩を抱いてにこっと笑った。

…もう自身の想いに嘘はつけないが、それでもとても恥ずかしくてまだ本人に面と向かって告白する勇気はない。

それにここに着いてから敵意というよりもあちこちから視線を感じて落ち着かなかった。


「我々も強き者に従います。今まで百鬼に加わらなかったのは九頭竜の矜持故。我らの方から従うと口にするのはとても勇気の要ることでしたから」


「そうか。俺は雨竜に居場所を作ってやりたかっただけで、九頭竜だからという理由じゃない。これからはお前が九頭竜をまとめてうまくやってくれ」


また深々と頭を下げた緑竜だったが――雨竜はこの長兄に実は苛められたことがない。

いつも遠巻きに見られていて、助けてくれることもなかったが、殴ったり蹴られたりすることもなかった。

九頭竜にしては温厚な気性だったためか、雨竜もこの兄に何ら恨みを抱いたことがなかった。


「で、俺は皆に認められそうか?」


「ええもちろん。あなた様のその妖気、美貌、父を倒したその強さ…何を逆らうことがありましょうか」


良夜たちの前には豪華な料理と酒が次々と並べられていた。

緑竜に再三泊まっていってくれと言われてその気になった良夜は、さらに強く美月を抱き寄せて耳元で囁いた。


「今夜は泊まって行こう」


「え…っ、ええ…」


がちがちに緊張した美月に良夜、にやにや。