問題は乱青龍が死んだことで一族からの逆襲があるかどうかだった。

これほど派手な戦闘をしたため気付いていないはずはなく、良夜も美月と同じように雨竜の背に腰かけてあちらからやって来ることを待つことにした。


「しかしでかかった。腹の中は迷路みたいに広かったし」


「冗談はやめて下さい。お主が飲み込まれた時どれほど泣…なんでもありません」


「目が腫れているみたいだけど気のせいか?」


「気のせいです!」


雨竜が長い首を折って顔を近付けてくると、良夜は口を開くように言って中を覗き込んだ。


「炎じゃなかったと思うが、お前何を吐いた?」


「炎だよ。俺、頭がひとつしかないんだけど、その分なんていうか…九つ分の首が吐くはずの炎がひとつになったっていうか」


「じゃあその尾の威力もひとつで九つ分ということか?」


「多分ね。やってみる?」


雨竜が尾を振り上げると、慌てた美月はその尾にしがみついて首を振った。


「だ、大丈夫ですから!ですが雨竜、お主は通常の九頭竜とは少し違うけれど、やはり九頭竜ということなのですね。良かったですね」


「うん!」


和んでいると、重たいものが地を這っているような音が近付いてきた。

良夜は反射的に美月の肩を抱いて抱き寄せ、雨竜は鎌首をもたげて金色の瞳孔の狭い目を光らせ、狼はそんな彼らの前にずいっと出て唸り声を上げた。


「おい、加勢すると言ったな。信じていいな?」


『是。我の腹はまだ膨れておらぬ。もっと血を寄越せ』


さすが妖刀だなと感心していると――茂みをかき分けて目の前に現れたのは、乱青龍よりも一回り小さい九頭竜だった。

首を伸ばして絶命した乱青龍をしばし眺めた後、良夜の前まで進んできて立ち上がり、ものすごく高い位置から見下ろされた。


「あれなるは我が一族の頭領であった乱青龍様。乱青龍様を殺したのは…そなたか?」


「そうだ、訳あって話し合いに来たが話を聞いてもらえず襲われたから、仕方なく戦った末にこうなった。お前は話の分かる九頭竜か?」


九頭竜は、ちらりと雨竜を見た。

ひとつ頭の九頭竜――雨竜もまたじっと見上げた。

絶対に良夜たちを守ると決めたから、目を逸らさなかった。