「ば…馬鹿なぁーっ!」


それは炎というよりも、光線だった。

光が鋭い刃物のようになって頭を落とすと、乱青龍は暴れ狂ってのた打ち回った。


「美月、俺の背に乗って」


「え、ええ…」


そして雨竜が再び口を開きかけた時――唯一皮の薄い腹がすうっと真一文字に切れたと思った途端、腹が裂けて大量の血飛沫が飛び散った。


「こ、これはどういうことなの…?」


「良夜!良夜だ!」


雨竜が嬉しそうに尾を振り回すと、全身血まみれになった良夜が腹から出てくるなり放物線を描いて天叢雲を投げた。


『おい、我が救ってやったのに何故投げられねばならぬのだ!?』


「お前は飲み込まれた後悠長に‟滅多にない機会だから探検しよう”と言っただろうが。こっちはいつ溶かされるか冷や冷やしていたんだからな!」


ひとりとひと振りがぎゃあぎゃあ言いながら喧嘩していて話しかける時機を見失った美月がおろおろしていると、ようやく乱青龍の落ちた首に気付いた良夜は、複数の視線を感じてようやく美月たちの方を見た。


「え…お前、雨竜なのか?」


「うん!良夜!俺がやったんだよ!褒めて!」


美月を背に乗せて怒涛の如く這って雨竜の元まで辿り着いた雨竜は、良夜の周りをぐるぐる回って目を輝かせていた。


「よくやったが申し訳ないことをしたな。お前の父だったのに」


「うん、でも…俺は父上に我が子と認められてなかったから…いいんだ。だから大丈夫」


もう肩に乗せることもできないほど大きくなった雨竜の背に乗っていた美月と目が合った良夜は、ぱっと目を逸らされてにたりと笑った。


「そういえば腹の中に居る時俺の名を叫ぶ女の声が聞こえた気が…」


「きっ、気のせいじゃないですかっ?それよりお主を助けてくれた雨竜と天叢雲を褒めてやって下さい」


「ん。天叢雲はともかく雨竜、助けてくれてありがとう。頭を撫でてやるぞ」


「うん!」


身体は大きくなったがまだ中身は幼く、あの乱青龍の頭を一瞬で落とした雨竜の実力にほくほくしながら頭を撫で回した。