天叢雲が良夜に授けた策は、九つある頭を絡めてがんじがらめにして動けないようにすることだった。
ただし尾も九つあるため、こちらに関しては頭を絡めた後尾を切断して瀕死の状態にすること。
『頭はともかく、尾は斬られてもいずれまた生えてくる。頭を落とせばそれこそ狂ったように見境なくこの地を破壊するぞ。ならば尾を狙う他ない』
「分かった。そろそろ雨を上げてもいいぞ」
美月から遠ざけるためさりげなく乱青龍を移動させながらも、良夜は狼の背に括られている籠から雨竜がまだ出て来ないことを気にかけていた。
自分がやられてしまえば、雨竜などひとたまりもない。
それは美月や狼にも言えることで、自分が倒れればその先は――
「…雨竜の父を殺したらどうなる?」
『妖は強き者に屈服する。貴様の配下に加わるか、もしくは一族総出で貴様の命を狙いに来るかのどちらかだ』
「お前はどちらに賭ける?」
『貴様の度量を見せるべきだと思うが。そこの貴様の女にもいい所を見せぬとまた愛想を尽かされるぞ』
また、と言われて戦闘の最中でも思わず天叢雲を見下ろした良夜は、じっとり目を細めて声を低めた。
「お前はまたそうやって俺を苛つかせるつもりか?」
『ふははは、貴様とあの女の執念深さを我はよく知っている。…まあ、我も執念深いと言えば執念深いな。貴様をずっと待っていたのだから』
生真面目な声を発した天叢雲を追及しようと口を開きかけた良夜だったが、それを天叢雲が被せて止めた。
『この戦いはもう終わる。何故ならば我が貴様に力を貸すからだ』
「ん、それで?」
『…全て終わったら我の願いをひとつ叶えてもらう。それだけは確と約束せよ』
「分かった」
『……その即答っぷりも変わらぬなあ』
「で、その願いってなんだ?」
天叢雲は、良夜にだけ聞こえるような小さな声で――囁いた。
『貴様が当主になり、天命を全うして死する時――我はしばしの休息に入る。貴様以上の相応しき者が現れるまで、眠らせてくれ』
相応しいも何もまだ父から正式に譲り受けてはいない天叢雲の言葉は、何故か良夜の胸に深く沁みて頷いた。
「分かった」
『では行くぞ』
良夜の目に殺気が溢れ出ると共に青白い炎が燈った。
ただし尾も九つあるため、こちらに関しては頭を絡めた後尾を切断して瀕死の状態にすること。
『頭はともかく、尾は斬られてもいずれまた生えてくる。頭を落とせばそれこそ狂ったように見境なくこの地を破壊するぞ。ならば尾を狙う他ない』
「分かった。そろそろ雨を上げてもいいぞ」
美月から遠ざけるためさりげなく乱青龍を移動させながらも、良夜は狼の背に括られている籠から雨竜がまだ出て来ないことを気にかけていた。
自分がやられてしまえば、雨竜などひとたまりもない。
それは美月や狼にも言えることで、自分が倒れればその先は――
「…雨竜の父を殺したらどうなる?」
『妖は強き者に屈服する。貴様の配下に加わるか、もしくは一族総出で貴様の命を狙いに来るかのどちらかだ』
「お前はどちらに賭ける?」
『貴様の度量を見せるべきだと思うが。そこの貴様の女にもいい所を見せぬとまた愛想を尽かされるぞ』
また、と言われて戦闘の最中でも思わず天叢雲を見下ろした良夜は、じっとり目を細めて声を低めた。
「お前はまたそうやって俺を苛つかせるつもりか?」
『ふははは、貴様とあの女の執念深さを我はよく知っている。…まあ、我も執念深いと言えば執念深いな。貴様をずっと待っていたのだから』
生真面目な声を発した天叢雲を追及しようと口を開きかけた良夜だったが、それを天叢雲が被せて止めた。
『この戦いはもう終わる。何故ならば我が貴様に力を貸すからだ』
「ん、それで?」
『…全て終わったら我の願いをひとつ叶えてもらう。それだけは確と約束せよ』
「分かった」
『……その即答っぷりも変わらぬなあ』
「で、その願いってなんだ?」
天叢雲は、良夜にだけ聞こえるような小さな声で――囁いた。
『貴様が当主になり、天命を全うして死する時――我はしばしの休息に入る。貴様以上の相応しき者が現れるまで、眠らせてくれ』
相応しいも何もまだ父から正式に譲り受けてはいない天叢雲の言葉は、何故か良夜の胸に深く沁みて頷いた。
「分かった」
『では行くぞ』
良夜の目に殺気が溢れ出ると共に青白い炎が燈った。

