すでに美月たちはかなり離れた所に居たが――
さっきまで熱風が吹いていて山火事になっていたのに、今は土砂降りの雨が降っていて火を消してくれていた。
だが次に聞こえた乱青龍の咆哮にぴたりと足が止まってしまい、狼が何度も鼻で美月の肩を押して先を促した。
「もっと離れよう。良夜様の命なんだから言うこと聞いて」
「…いえ、私は戻ります」
「!?なんでだよ…それじゃ俺が怒られる…」
「私がお主の分まで怒られますから戻りましょう。雨竜、それでいいですね?」
「…」
相変わらず返事はなかったが、美月は雨に濡れた髪を絞りながら踵を返して歩き始めた。
それに伴い狼も仕方なくついて行くことになったわけだが、狼としても良夜ひとりを置いてあの場を離れることは本望ではなかったため、美月の前でしゃがんで背に乗るよう促した。
「戻るんならすぐ戻ろう。火事で道が開けてるからきっと早く着く」
「お願いします」
「美月は良夜様大好きなんだな。俺の方がもっと好きだけど」
そう改めて問われると、他人から見ても自分は良夜を好いているように見えていたのかと思うと恥ずかしくなったが――狼は良夜の幼馴染だし、出会った時から親近感を抱いていたため、突っぱねずに素直に頷いた。
「あの方はきっと…特別な方なので」
運命というものがあるのならば――きっと良夜が運命の相手だ。
身持ちを固くしてずっと待っていたのは、きっと良夜だ。
だから良夜が探している女が自分であればいいと心から願っていた。
「見えてきた!」
開けた場所に出るとそこには――九つある首を自在に振り回して良夜に襲い掛かっている乱青龍と、その動きよりも速く乱青龍の周囲を挑発するように飛び回っている良夜の姿が在った。
「良夜様…」
ほっとした。
離れることがもうこれほどつらいものだと知ったから、もう…離れない。
さっきまで熱風が吹いていて山火事になっていたのに、今は土砂降りの雨が降っていて火を消してくれていた。
だが次に聞こえた乱青龍の咆哮にぴたりと足が止まってしまい、狼が何度も鼻で美月の肩を押して先を促した。
「もっと離れよう。良夜様の命なんだから言うこと聞いて」
「…いえ、私は戻ります」
「!?なんでだよ…それじゃ俺が怒られる…」
「私がお主の分まで怒られますから戻りましょう。雨竜、それでいいですね?」
「…」
相変わらず返事はなかったが、美月は雨に濡れた髪を絞りながら踵を返して歩き始めた。
それに伴い狼も仕方なくついて行くことになったわけだが、狼としても良夜ひとりを置いてあの場を離れることは本望ではなかったため、美月の前でしゃがんで背に乗るよう促した。
「戻るんならすぐ戻ろう。火事で道が開けてるからきっと早く着く」
「お願いします」
「美月は良夜様大好きなんだな。俺の方がもっと好きだけど」
そう改めて問われると、他人から見ても自分は良夜を好いているように見えていたのかと思うと恥ずかしくなったが――狼は良夜の幼馴染だし、出会った時から親近感を抱いていたため、突っぱねずに素直に頷いた。
「あの方はきっと…特別な方なので」
運命というものがあるのならば――きっと良夜が運命の相手だ。
身持ちを固くしてずっと待っていたのは、きっと良夜だ。
だから良夜が探している女が自分であればいいと心から願っていた。
「見えてきた!」
開けた場所に出るとそこには――九つある首を自在に振り回して良夜に襲い掛かっている乱青龍と、その動きよりも速く乱青龍の周囲を挑発するように飛び回っている良夜の姿が在った。
「良夜様…」
ほっとした。
離れることがもうこれほどつらいものだと知ったから、もう…離れない。

