天叢雲は八岐大蛇の腹もしくは尾から出て来たものと言われている。
八岐大蛇が恐ろしく強かったのは、無尽蔵の妖力を発し続ける天叢雲からその力を取り込み続けていたからだ、という説もある。
よって自らもあれを取り込むことができれば…と考えた乱青龍だったが――なにぶんあの天叢雲の様子――
口では悪態をつきつつもすでに主を良夜と選んでいるのか、馬鹿げた妖力を発し続けていて、あれに斬られればただでは済まされない、と分かっていた。
「図体はでかいが動きが速いな。酒があれば酔うとかいう話は本当か?」
『真実ではあるがもうこの世には存在せぬ。それより…』
ぼそぼそと話している間に乱青龍は良夜に向けて長い首を伸ばすと、九つの首が一斉に炎を吐いて良夜を歓喜させた。
「やっぱりかっこいい」
『いい加減にせよ。早く我の言う通りにせぬか』
「そうは言ってもあいつ動きが速すぎて…おっと」
すでに辺りは火の海。
狼たちはもう遠くまで逃げてくれただろうかと強い熱風に髪をなぶられながら考えていた良夜は、自分ひとりを殺すために森までも破壊しようとする乱青龍に怒りを覚え始めていた。
「お前雨を操るんじゃないのか?この辺一体焦土と化していいのか?すぐそこには集落もあるんだぞ」
「構わんよ、私は高志を制する者。木などまたすぐ生える」
本来の姿に戻ってから乱青龍の様子は若干おかしかった。
高揚感に包まれているのかやたら火を吐き、尾を振り回して落ち着きがない。
自我を保っていてもそうなってしまうのか――雨竜をちゃんと躾けないと、とまたのんびりしたことを考えていた良夜は、天叢雲を見下ろした。
「お前雨は降らせるか?」
『造作もない』
「やれ」
良夜が天叢雲を頭上に掲げると、みるみる雨雲が集まってきて雷鳴と共に大粒の雨が降り始めた。
乱青龍は舌打ちをして再び吠えた。
その声は、美月たちの耳にも届いていた。
「良夜様…!」
雨に濡れながら足を止めて良夜を思った。
八岐大蛇が恐ろしく強かったのは、無尽蔵の妖力を発し続ける天叢雲からその力を取り込み続けていたからだ、という説もある。
よって自らもあれを取り込むことができれば…と考えた乱青龍だったが――なにぶんあの天叢雲の様子――
口では悪態をつきつつもすでに主を良夜と選んでいるのか、馬鹿げた妖力を発し続けていて、あれに斬られればただでは済まされない、と分かっていた。
「図体はでかいが動きが速いな。酒があれば酔うとかいう話は本当か?」
『真実ではあるがもうこの世には存在せぬ。それより…』
ぼそぼそと話している間に乱青龍は良夜に向けて長い首を伸ばすと、九つの首が一斉に炎を吐いて良夜を歓喜させた。
「やっぱりかっこいい」
『いい加減にせよ。早く我の言う通りにせぬか』
「そうは言ってもあいつ動きが速すぎて…おっと」
すでに辺りは火の海。
狼たちはもう遠くまで逃げてくれただろうかと強い熱風に髪をなぶられながら考えていた良夜は、自分ひとりを殺すために森までも破壊しようとする乱青龍に怒りを覚え始めていた。
「お前雨を操るんじゃないのか?この辺一体焦土と化していいのか?すぐそこには集落もあるんだぞ」
「構わんよ、私は高志を制する者。木などまたすぐ生える」
本来の姿に戻ってから乱青龍の様子は若干おかしかった。
高揚感に包まれているのかやたら火を吐き、尾を振り回して落ち着きがない。
自我を保っていてもそうなってしまうのか――雨竜をちゃんと躾けないと、とまたのんびりしたことを考えていた良夜は、天叢雲を見下ろした。
「お前雨は降らせるか?」
『造作もない』
「やれ」
良夜が天叢雲を頭上に掲げると、みるみる雨雲が集まってきて雷鳴と共に大粒の雨が降り始めた。
乱青龍は舌打ちをして再び吠えた。
その声は、美月たちの耳にも届いていた。
「良夜様…!」
雨に濡れながら足を止めて良夜を思った。

