天叢雲を握る手から柄、そして刀身へと――溶けて一体化するような妙な感覚がした。
そしてまた例の走馬灯のような自らは経験していないはずの光景が、頭の中に流れ込んできた。
『黎さん、その刀がちょくちょく神羅ちゃんに話しかけてるの』
『なんと言っていた?』
『‟少し血を寄越せ。貴様の血は美味そうだ”とかなんとか。私も言われたことあるよ』
『澪、あいつに話しかけられても無視しろ。ちょっと説教してくる』
縁側で会話をしていたのは――恐らく鬼族の女なのだろうが、およそ鬼らしくない幼さを残した可愛らしい女だった。
『あんまり怒らないであげてね。黎さんに話しかけてもすぐ怒られるからつまらないとも言ってたよ』
『…分かった』
そして黎は自室の隅の方に無造作に立てかけてあった天叢雲の前に座ると、こつんと鞘を叩いた。
『お前刀のくせに拗ねてるのか』
『調子に乗るな。我は長らく主を持たず貴様の家の蔵に封印されていたのだ。多少喋る位いいではないか』
『分かった、話に付き合ってやるから神羅と澪をからかうのはやめろ。分かったか?』
『からかっていたわけではないが…よし、それで妥協してやろう。まずは我の出自から訊くがいい。そして敬え』
――目を開けた良夜は、天叢雲が言った通り数えきれないほど群れていた蛇が一瞬にして消え失せていたことに目を丸くした。
思わず手に握っている天叢雲を見下ろすと、手の中から不気味な笑い声を発していた。
『ふはは、貴様妖力はあの頃と変わらぬと見える』
「…おい、お前は一体俺の何を知っているんだ」
『貴様自身が記憶を封じているのよ。我はそれに加勢せぬぞ、自ら覚醒せよ。さすれば我は貴様を正統なる主として認めよう』
良夜は腕を組んで笑っていた乱青龍がその笑みを消して真顔になっているのを見て再び天叢雲を構えた。
「まずはあれをどうにかしないと」
狼は雨竜と美月を連れてその場を離れた。
負ける気がしない――その気迫は乱青龍にも伝わり、ゆっくり身構えた。
そしてまた例の走馬灯のような自らは経験していないはずの光景が、頭の中に流れ込んできた。
『黎さん、その刀がちょくちょく神羅ちゃんに話しかけてるの』
『なんと言っていた?』
『‟少し血を寄越せ。貴様の血は美味そうだ”とかなんとか。私も言われたことあるよ』
『澪、あいつに話しかけられても無視しろ。ちょっと説教してくる』
縁側で会話をしていたのは――恐らく鬼族の女なのだろうが、およそ鬼らしくない幼さを残した可愛らしい女だった。
『あんまり怒らないであげてね。黎さんに話しかけてもすぐ怒られるからつまらないとも言ってたよ』
『…分かった』
そして黎は自室の隅の方に無造作に立てかけてあった天叢雲の前に座ると、こつんと鞘を叩いた。
『お前刀のくせに拗ねてるのか』
『調子に乗るな。我は長らく主を持たず貴様の家の蔵に封印されていたのだ。多少喋る位いいではないか』
『分かった、話に付き合ってやるから神羅と澪をからかうのはやめろ。分かったか?』
『からかっていたわけではないが…よし、それで妥協してやろう。まずは我の出自から訊くがいい。そして敬え』
――目を開けた良夜は、天叢雲が言った通り数えきれないほど群れていた蛇が一瞬にして消え失せていたことに目を丸くした。
思わず手に握っている天叢雲を見下ろすと、手の中から不気味な笑い声を発していた。
『ふはは、貴様妖力はあの頃と変わらぬと見える』
「…おい、お前は一体俺の何を知っているんだ」
『貴様自身が記憶を封じているのよ。我はそれに加勢せぬぞ、自ら覚醒せよ。さすれば我は貴様を正統なる主として認めよう』
良夜は腕を組んで笑っていた乱青龍がその笑みを消して真顔になっているのを見て再び天叢雲を構えた。
「まずはあれをどうにかしないと」
狼は雨竜と美月を連れてその場を離れた。
負ける気がしない――その気迫は乱青龍にも伝わり、ゆっくり身構えた。

