触れればきっと痛みすら感じずに触れた部位が斬り落とされる――そう思わせるには十分なほど、天叢雲の刀身は濁りなき光を放っていた。
素人目から見てもその美しさは相当なものだったが、それよりもやはり天叢雲自身が発している妖気がとてつもなく、使用する者に試練を与えて我が主として正当な者か推し量ると言われていた。
…だがその試練とやらは訪れず、天叢雲の妖気に引きずられないよう注意しながら構えた良夜はちらりとその刀身を見遣った。
「親父が言っていたが、試練はどうした?」
『貴様はもう試練を突破している故必要ない』
「は?試練なんか受けた覚えはないぞ」
『我が覚えている故問題ない』
またもやまったくもって意味不明だったが、今は眼前の雨竜の父をどうにかしなければならず、だらりと腕を下げたまま動かない男を見つめた。
「それはまさか我が始祖の腹より生まれし刀では?」
「そうらしいが、それがどうした?」
「ではそれも返してもらおう。私の腹に収めて我が力とする」
目の端で何かが動いたため肩越しにちらりと振り返ると、美月が雨竜が隠れている籠を抱きしめて雨竜の父を睨みつけていた。
「お主の虐待のせいで雨竜がどれほど悲しみ傷ついたことか!私たちはこの子の自由を主張するため参ったのです!もう雨竜を追うのはやめて下さい!」
「ほう…あれは私の子として産まれたが、あれだけが九頭竜らしくない姿だった。我らは九つの頭を持ち、九つの尾を持つ神に等しき存在。あのようななりでうろつかれては私の沽券に関わるというもの」
「親がそんなだと子が可哀想だな。では雨竜のことは死んだと思ってくれ。俺が引き取って百鬼として仲間に入れる」
「百鬼…そなた…百鬼夜行の?鬼頭の者か」
雨竜の父が指を鳴らすと、森の茂みをかき分けてあちらこちらから数えきれないほどの蛇が現れた。
「そうか、あまり興味はないが、妖が肩身の狭い思いをして生きているのは哀れだと思っていたところだ」
狼がさらにじりっと後退した。
危機が訪れたならば美月を連れて逃走すること――その良夜の願いを叶えるために。
素人目から見てもその美しさは相当なものだったが、それよりもやはり天叢雲自身が発している妖気がとてつもなく、使用する者に試練を与えて我が主として正当な者か推し量ると言われていた。
…だがその試練とやらは訪れず、天叢雲の妖気に引きずられないよう注意しながら構えた良夜はちらりとその刀身を見遣った。
「親父が言っていたが、試練はどうした?」
『貴様はもう試練を突破している故必要ない』
「は?試練なんか受けた覚えはないぞ」
『我が覚えている故問題ない』
またもやまったくもって意味不明だったが、今は眼前の雨竜の父をどうにかしなければならず、だらりと腕を下げたまま動かない男を見つめた。
「それはまさか我が始祖の腹より生まれし刀では?」
「そうらしいが、それがどうした?」
「ではそれも返してもらおう。私の腹に収めて我が力とする」
目の端で何かが動いたため肩越しにちらりと振り返ると、美月が雨竜が隠れている籠を抱きしめて雨竜の父を睨みつけていた。
「お主の虐待のせいで雨竜がどれほど悲しみ傷ついたことか!私たちはこの子の自由を主張するため参ったのです!もう雨竜を追うのはやめて下さい!」
「ほう…あれは私の子として産まれたが、あれだけが九頭竜らしくない姿だった。我らは九つの頭を持ち、九つの尾を持つ神に等しき存在。あのようななりでうろつかれては私の沽券に関わるというもの」
「親がそんなだと子が可哀想だな。では雨竜のことは死んだと思ってくれ。俺が引き取って百鬼として仲間に入れる」
「百鬼…そなた…百鬼夜行の?鬼頭の者か」
雨竜の父が指を鳴らすと、森の茂みをかき分けてあちらこちらから数えきれないほどの蛇が現れた。
「そうか、あまり興味はないが、妖が肩身の狭い思いをして生きているのは哀れだと思っていたところだ」
狼がさらにじりっと後退した。
危機が訪れたならば美月を連れて逃走すること――その良夜の願いを叶えるために。

