千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

翌朝近くに存在する神社に向かうことになった。

集落の外で野宿をしていた狼と雨竜と合流したものの――雨竜は籠の中から出て来ない。

出て来ないどころかどうやっているのか、中から蓋を開けられないようにしているため、その姿を見ることができないでいた。


「雨竜、大丈夫なのか?」


「大丈夫…。俺このまま狼の背中に乗っけてもらったままでいい?」


「それは構わないが…」


それっきり黙ってしまった雨竜に首を傾げたものの、本人がそう言っているのだから無理強いはできないため、良夜は美月を抱き上げて狼の背に乗せた。


「歩けます」


「無茶を言うな。狼が通れる広さであれば乗っていた方がいい。ここから神社は目と鼻の先だ」



処方された薬湯を飲んでよく眠れたものの――あの胸の痛みも相まって確かに体調は万全ではない。

大人しく頷いた美月に満足した良夜は、先導しながら鬱蒼としすぎて空の見えない頭上を仰ぎ見た。


「廃屋に近い神社と言っていたが…人からの信仰が途絶えて住み着いていた九頭竜も離れている可能性があるな」


「信仰があれば力が増して願いを叶えることも可能だそうですが…」


「縁結びもそのうちのひとつだったな。ふうん、縁結びねえ…」


それを聞いてつい妙な汗をかいてしまった美月を見てほくそ笑んでいた良夜は、小一時間ほど歩いたところでぼろぼろになった神社を見つけた。

廃屋になって久しいらしく、戸も閉まっていてなんの気配もない。

狼から下りた美月はとても小さな神社を一周して歩いてみたが、ここにはやはり何も居ないようだった。


「この先に滝がある。次はそこに行ってみよう」


雨竜は沈黙したままだ。

それを少し気にしつつ、美月の手を引いて滝に向かった。