千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

薬師は美月を細部まで診てくれたが、どこも悪い所はないと言った後、顔色の悪い良夜を案じた。


「あなた様のお加減も気にかかりますが…」


「いや、俺は大丈夫だ。ありがとう、助かった」


人好きのする笑顔全開で薬師を帰した後、良夜は美月が起きるまでじっとしていた。

素っ気なくしてしまい、不安でたまらなかったであろう中きっと胸が痛んで身体を引きずりながら捜してくれた美月が健気で、妙な嫉妬心など起こしたばかりにこんなことになってしまい、もう二度と美月を不安にさせまいと自身に誓った。


「美月…」


「…ん…」


良夜はまだぼんやりしている美月の額に手をあてて熱を測りながら素直に謝った。


「すまない、お前を不安にさせたな」


「……私…良夜様を捜しに行って…そして…」


美月が胸元をぎゅうっと握ると、良夜はまた傷んだのではと血相を変えて身を乗り出して美月の手を握った。


「痛むのか!?」


「あ…いえ、今は大丈夫です。というか…痛んだのは今日がはじめてで…」


美月も理由が分かっていないのか不思議そうにしていたが、良夜は黙っていればいいものの、胸元を指して言いにくそうに打ち明けた。


「お前が痛そうにしてたから…その…胸を見た」


「…え!?見たの!?」


「み、見ようと思って見たんじゃない。だけどお前、その痣は…」


美月は胸元を押さえながらゆっくり起き上がると、唇を噛み締めて俯いた。


「この痣も…私たちが見ている夢と関係あるのでしょうか」


「…俺は見た。神羅が夢の中で全く同じ位置に傷を受けて…」


「怖い…一体私たちは、なんなの…!?」


「美月、今はあまり考えるな。雨竜の件が済んだら俺が徹底的に調べ上げる。それと…お前をもう絶対不安にはさせない。…いずれお前の待っている男とやらが現れたとしても、俺は…諦めない」


待っている男、と言われて一瞬きょとんとした美月だったが、今までそう言っては良夜を牽制してきたため、今後はもう言わないでおこうと内心思いながら微笑んだ。


「以前は私の待っている男は俺かもしれない、とか言っていませんでしたか?」


「いや、言ったが…お前もそう思っているのか?」


「ふふ、さあ…どうでしょう」


忍び笑いを漏らした美月を優しく抱きしめた良夜は、頭に顎を乗せて肩で息をついた。


「もう絶対離れないぞ。覚悟しろ」


良夜の身体に腕を回して抱きしめ返した。

それが返事だと言わんばかりに。