千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-

美月は気を失いながらも胸を押さえて苦しそうにしていた。

気が気でない良夜はすぐさま薬師を呼び、到着するまでの間に美月を床に寝かしつけて部屋の中を行ったり来たりしていた。


「胸が痛そうだ…どうしたらいいんだ」


「う…っ」


眉間に皺を寄せて身を捩った美月にすぐさま駆け寄った良夜は、美月がひた隠しにしている身体の秘密をここで暴く形になることを心の中で謝りつつ、外傷があってはいけないと自身を鼓舞して浴衣の帯を緩めると――胸元を開いた。


「こ、れは…!」


豊満すぎる胸――左胸には小さめではあるが痣があった。

痣というより塞がった傷跡といった体で、その痣を見た途端ずきんと頭痛がして尻もちをつくようにしてぺたんと座った。


「俺は…これを知っている…」


片頭痛のような痛みがずきんずきんと襲ってきた。

その度に走馬灯のように自身の体験ではない光景が頭の中に流れ込んできた。


何者か分からないが――恐らく敵と思われる男に矢のような攻撃を胸に受けて膝をつく女…あれは、神羅だ。

恐らく神官衣と思われるその衣服の胸にみるみる広がる赤い色――

次に見たのは、横たわった神羅の胸に大きく開いた穴を見て立ち尽くす自分――いや、黎の姿だ。

怒りと絶望に身を震わせながらも決して神羅の傍から離れず、看病を施して…そしてなんとか一命をとりとめた。

だがその胸には傷跡が残り、黎がそれをとても悔やんでいたこと――


「ああ…なんだこの記憶は…っ」


――何故美月の胸元に全く同じ傷跡…いや、痣があるのだろうか?

何故こんな記憶を自分は持っているのだろうか?


「くそ…っ」


考えれば考えるほどひどい頭痛がして、美月の傍で頭を抱えてうずくまった。