「いつがよろしいでしょうか?」
私の譲歩する言葉に櫂がスマホの向こうで薄笑いを浮かべているはずだ。

「ありがとう。今、横浜の青葉区にいるんだ。今日のランチでもどう?」

この押しの強さは昔と変わらない。いつだって櫂は自分の思い通りに人を動かしていく。

「わが社の支社長もしくは営業の同席は必要でしょうか」
この程度の嫌味など櫂には嫌味にもならないとわかっているのに無駄な抵抗を試みる。

「いいや。灯里一人がいい。でも、灯里が自分のプライベートをさらしたいというのなら連れてきてもいいよ」
櫂は電話の向こうでくすっと笑った気配がする。

「かしこまりました。わたくしが一人で伺います。場所の指定はございますか?」

櫂は初めから店を決めていたらしく、店の名前と住所を言った。ここから車で20分程度の場所にあるらしい。

「店で待ってるよ。少し長めの昼休みをもらってきて」そう言って電話が切れた。

本当に強引な男。