急いでコートを羽織り駐車場に降りていくと、私の姿を見つけた社長が車から降りてきて助手席のドアを開けてくれた。

「ありがとう」
シートベルトをしていると目の前が暗くなり大和さんの顔が近付いて、ちゅっと挨拶代わりの軽いキスが落とされる。

あれからこれももう恒例。
ただ、これは挨拶のキスで私がプロポーズの返事として言った”愛のあるキス”ではないのだそうで。
もちろん、挨拶のキスだって愛が入っていないわけじゃないらしいんだけど。

とにかく、大和社長の考える”愛のあるキス”は後でゆっくりされることになる。
ーーーこんなに甘い人だなんて知らなかったよって事ばかり。


「まさか、ベッドを置く部屋まで指定して配送するとは」
「一部屋空いてるのは知ってたし。これからあそこが俺たちの寝室だから」

ん?
俺たちの??

「まさか突然営業事務に欠員が出るとは思わなかったからなぁ。本当ならもう灯里は本社に戻って来てるはずだったのに、この時期になってもまだ戻せないとは思わなかった。
ーーで、新しい営業事務の子は何とかなりそうなのか?光の弟の拓朗は即戦力だからいいとして」

そうなのだ。
営業事務の村上さんがおめでたとなり酷いつわりで出社が難しくなってしまったのだ。
40代での初産で支社をあげてのお祝いムードなんだけど、とにかく彼女の体調が悪い。
大事を取ってお休みしてもらうことが多く、産後も育休を取ることも決まっているから急いで営業事務を募集することにしたのだ。