月が輝き始め外はすっかり夜のとばりが下りている。

車内は心地好いエンジン音だけ。
嫌な沈黙ではない。むしろ通じあった心を噛み締めているから会話がなくてもいい。

でも、そういえば…
「到着ゲートから出て来てすぐに女性に声をかけられてましたけど、あれってあの人に何か誘われてたんですか?」

抑揚を付けずに尋ねると

「そうだな」

こちらも抑揚を付けずひと言で返された。

詳しく説明する気などないらしい。
まあいいか。大和さんが誘いに乗るはずないのだし。
偽カノだった時からそうだった。

また車内に静寂が戻る。

東京湾クルーズの船の明かりがチラチラする頃、
「さっきの金髪野郎以外に声をかけられてないか?」
隣から低い声がした。

「うん」

そして私の返事に対する返事はなかったーーー
・・・まあいいか。


そのまましばらく走らせてベイブリッジに差し掛かった時だった。

「俺はお前の打掛姿が見たいから、神前式にするけどいいか?ドレスは披露宴で好きなだけ着ていいから」

ーーーまさかとは思うけど、それプロポーズですか、大和サン。

「・・・キスは毎日して下さいね。冷たいのじゃなくて。ちゃんと愛を感じられるやつですよ」

くすくすと笑いながらハンドルを握る私の左手に彼の右手が添えられる。

「わかった。約束だ。さっそく今日から実行だな。楽しみにしとけ」
助手席で私の暴君が満足そうな声を出した。

高速運転中だから隣にいる姿をちらりとしか見られないけれど、黒い笑みになってる???

ええっと。
もしかしてこのお願いは失敗だったかも?
ちらっと早速後悔しそうになるけど・・・ううん、たぶん大丈夫。
大和さん私の嫌がることはしない。---多分・・・。

多分・・・?