冷たいキスなら許さない

「ただここに出入りする回数が社長より多いだけですよ」

「いや、実際親父たちがこっちに引っ越してから何度かここにも来ているけど、今夜が一番居心地がいいな」
柔らかい微笑みを見せるからドキッとしてしまう。
どういう意味だろう。

「社長、食器を洗いますからあなたはさっさとバスルームに行ってください」

私が腕まくりをした途端に社長の目が大きく見開かれた。
「その、痕」

ん?視線をたどって自分の腕を見ると、あの男につかまれたところが少し赤くなっている。

「押してもたいして痛くないから平気ですよ」
社長があまりに心配そうな顔をするから笑顔を見せて赤い跡をギュッと押してみせる。

「ほらね、こんなのよりあのベッドを作った時の方が痛かったから平気ですよ」
と右の脛を指さした。

先日の社長宅のベッドを作った時にうっかりつまづいてベッドの角で脛をぶつけたのだ。
あれはホントに痛かった。ひどく内出血してしまって、しばらくの間はみっともないからひざ下が出るようなスカートがはけなかったほど。

でも、大丈夫だと口角を上げてみせる私を社長は許すつもりはないらしい。

「・・・あの時、あいつと何を話してた?あの時お前に何があった」

ハッと息をのんで社長の顔を見る。

たぶん”あいつ”はセクハラ野郎のことじゃない。
ーーもしかして櫂とキスしたのを見られたんだろうか。