別れた男が住む東京に近付きたくないのだ。

そんな事をメグミちゃんに言えるはずもなく微妙に笑っていると
「大和さんと離れるのが不安なんですか?大和さんが浮気しないか?私見張っときますからね」
とメグミちゃんがとんでもないことを言い出した。

「灯里ちゃんと兄貴ってまさかほんとに?とうとう?やっと?」
からかうように進さんがニヤニヤしはじめる。

「そんなはずないでしょ。社長の好みは爆乳の美女なんだし。私はあくまでもカモフラージュの彼女役。社長の好きな人は別にいるんだから」
メグミちゃんと進さんをひと睨みしてプリンを口に運んだ。

私は外で社長の溺愛する彼女のようにふるまい外敵から社長を守るという仕事も請け負っている。
普段は社長と呼んでいるけれど、恋人役の時は”大和さん”と使い分けて呼んでいる。
外敵って言うのはわかりやすくイケメンでお金のある独身男性である大和社長に群がってくる女性や、彼にお相手を紹介したいおばさまたち、自分の血縁と姻戚関係を結びたいお偉いさんなどなど・・・。

私たちのこの関係は一部の人の中では旧知の事実になっていて、私たちも特に隠してはいない。
それなのにこうしてたびたびからかわれる。

ところで、私以外の社員はほとんど”大和さん”と呼んでいる。先代社長がいた時の名残らしい。代替わりしても”社長"というより人懐っこい彼は”大和さん”と呼ばれた方が似合うと私も思う。

じゃあなぜ、私が社長と呼ぶのかというと、私は先代社長のことをほとんど知らないからである。
私が就職した時にはすでに大和さんが社長だったから私は”社長”といえば大和さんなのだ。

「お似合いなのになー」
「メグミちゃんしつこいよ」

そういえば、私が厚木に行ってしまったら困るのは大和さんじゃないんだろうかーーー