ヤバイ、
早くしないと始まってしまう。



私、山下南(やましたみなみ)は、中学最後の
塾が長引いてしまい、帰りの電車でおどおどしながら時計を見ていた。



やっと受験が終わった、やっと、あの人の声が聴けると思っていたのに、先生の雑談のせいで!!!
あの人の声は聴けなくなってしまうかもしれない。


あの人の声が聴ける時間まであと20分。駅から家まで20分、絶対間に合わない。


あぁーどうしよーう。


私は駅に着いた瞬間、まだ肌寒い3月の夜の中をダッシュして家に帰った。


息を切らしながらも家に18分で着くことができた。

急いで二階にあがり自分の部屋に駆け込むと私は、ラジオをつけた。

「今からの時間は、私、日村裕太(ひむらゆうた) がお送りします。さて、今日もたくさん のリクエストを見ていきましょう。」

間に合った、安堵のため息をしながら私は制服を脱ぎ始める。


懐かしい声がする。




この時間のラジオを毎日聴くようになったのは、いつからだろう。

最初は興味本位で聴いてみたラジオ。


だけど、不意にラジオパーソナリティをしている日村裕太君という人の声と会話に、突然私の心は奪われた。


それから毎日聴くようになり、日課になっていた。


日村裕太君という人についてはよく知らないが、リスナーがとても多く人気は芸能人並みだという。


調べても出てくるのは放送する時間帯だけ。



私はいつも思う。


裕太君って優しくてとても明るい人なんだろうなって。