なぜなら、わたしは肝心なことを忘れていたから。


『また混乱を招くようなことがあれば、…次はどの記憶を失うかわからないと言われているの』


あのときの、隼人のお母さんの言葉を思い出す。


もしわたしが余計なことを言ってしまって、万が一でも隼人が混乱するようなことがあれば――。


わたしは、隼人の新しい人生さえも潰してしまうかもしれない。


だから…、やっぱり言えない。


わたしは、唇をキュッと噛んだ。



次の日の部活帰り。

校門に行くと、本当にクミちゃんが待っていた。


「かりんちゃ〜ん!お疲れ!」

「…あっ。う…うん」


他校の制服姿のクミちゃんは浮いて見えた。


クミちゃんに連れられて、わたしは駅前のカフェへ入った。

わたしが選んだカフェオレとケーキをクミちゃんが代わりに払ってくれた。