「俺、すごく大事ななにかを失くしたような気がするんだ。…でも、それが思い出せない。もし、昔の俺のことを知っている人がいたら、なにか教えてもらえると思ってるんだけど」


――『すごく大事ななにか』。

それって、わたしのことを意味しているの…?


「…あっ、ごめんね。なんか微妙な空気になっちゃったね。突然こんなこと言われても迷惑だよね」


恥ずかしそうに頭を書く隼人。


「また雨降りそうだから、そろそろ戻ろうか」


隼人はそう言って、わたしのそばを通り過ぎようとした。

――そのとき。


「…待って」


わたしは、隼人の腕をつかんだ。

驚いた表情の隼人がわたしを見下ろす。


わたしだって…驚いた。

自分がまさか、こんな行動を起こすとは。


「…どうかした?広瀬さん」

「あ…あのっ」