決して結ばれることのない、赤い糸

そう。

それは、観客席だった。


見ると、そこには見たことのある他校の制服姿の女の子が――。


『…あっ!隼人!』

『クミ!』


以前、校門前で見かけた…隼人の彼女だった。


…あの人も、試合を観にきていたんだ。


わたしは、思わずフルートを持つ手に力が入っていた。


隼人が彼女に向けるあのポーズ――。

わたしは、その意味を知っている。


記憶を失くしてしまった隼人には、そのポーズをわたしに向けてくれていたことすら覚えていない。

覚えていなくても、おそらく隼人があのポーズに込めている想いは同じ。


『ずっと俺を見ていて』


だけど、隼人のピストルの先が向けられているのは、もう…わたしじゃない。



それから、ロスタイムも無事に守りきり、隼人の決勝点で天川高校が勝利した。