決して結ばれることのない、赤い糸

思い出したかのように、慌てて自己紹介をする隼人。

そんな変わらない素直な隼人の姿に、思わず笑みがこぼれる。


知ってるよ、その名前。

1日だって、忘れたことはない。


わたしの顔を見ても、わたしの名前を聞いても、危惧していた混乱する様子は見られない。

隼人が引っ越す日に、病院の屋上で会ったことも覚えていないようだ。


もう隼人は、新しい瀧隼人という人生を歩んでいるんだ。


脚のケガもまるでなかったかのような、さっきの軽い走り。


ケガも完全に治って、記憶も落ち着いて、喜ばしいはずなのに――。

隼人の中に、わたしという存在がいないという事実が…つらい。


「…ていうか、さっきから気になってたんだけど、なんで敬語?」


久しぶりに会って、初対面のつもりでいたから、思わず敬語で話してしまっていた。