先輩たちに無理にお酒を勧められ、お酒に弱い紗菜が断りにくそうにしているところを、すかさず俊貴が代わって飲んでくれた時だって。


本当に幾つもの些細な事が積み重なって、心の色の面積が大きくなっていった。

色の意味が”好き”と言う事なんだとわかったのは、出会ってから随分たっていた。

それを伝える事もせず、今までと変わらない友達の立場に留まっていたのは、告白して側にいられなくなるより、友達として少しでも長く側にいたかったから。

そして、溢れ出す前に、もうすでに手遅れなんだと思い知ったとき、心にもない言葉が紗菜の口から出た。


「…俊貴、おめでとう」

そして、さようなら。



「…何がおめでたいんだ?」

いつもより低いトーンの声が、誰もいない通用口の狭いロビーに響いた。