「いやそんな。今はいらないよ。塾の先生とかありえないし」

「ええ?全然ありますよ。同級生の友達で32歳の人と付き合ってる子います」

突然の実例に思わず本心がそのまま漏れでた。

「へ?それは…、彼氏の方の神経疑うわ」
「そんな固いこと言わないでくださいよ」



「恋愛は自由だけど、勉強に支障きたしたくないし」

私が言うと、佐倉咲は呆れたようにため息をついた。

「んー…なら、その先生とはどんな話するんですか?」


カズオ先生との会話は、どれもこれも私の知らない世界で聞くのが楽しい。


「先生の大学の話聞いたり、前してたバイトの話とか、後はサークルの友達の話とか」


先生の話を思い出して笑いそうになるのをこらえながら言った。


「なんだ。意外と先輩もやりますね」
「ええ?」


「普通、先生がサークルの友達の話を塾の生徒にします?」

普通を私に聞かれても、先生という人種と仲良くなったのはカズオ先生が初めてだからぴんと来ない。


私が首をかしげていると佐倉咲は言った。


「先輩がそう思ってるだけで、先生は先輩のこと生徒だって思ってないんじゃないですか?」

「ええー。そんな訳ないよ」

口先ではそう言いながらも、
頭の中では佐倉咲の言葉を完全に否定できなかった。