「だからさぁ、なぁ?行かせろよ」
そう言いながらリュウは俺の方に手を置いた。
「はぁ?無理だって。お前らが俺の学校に来たら必要以上に目立つだろ」
俺の高校の集合写真を見せてからというもの、事あるごとにリュウとセンが俺の学校に来たがるというノリが出来てしまった。
「なら!目立たなかったらいいのか」
センはまるで自分が良い方法を発見したかのように言った。
「そうだけど。部活の試合でもないのに他校の生徒がうちに来ると目立つだろ。」
俺が言うとセンは分かりやすく悔しそうにする。
すると、それまで黙ってスマホをいじっていたカイトが口を開いた。
「なぁ、チカ。お前んとこ、体育大会もうそろそろだろ?」
「なんだよ、カイトまで。お前らどんだけ俺の高校に来たいんだよ」
何とかして来ようとする魂胆が見え見えだ。
「お前らの学校の体育大会みたいに練習とか準備とかしないし派手でもないから、保護者も来ないよ」
他校の友達が来る奴もいることはこいつらに黙っておこう。
しかし、この後俺はこの四人にはそんなことをしても無駄だと思い知らされることになる。
ふいに何かを思いついたような顔をしたカイトは、厨房へ向かって大声でおばさんを呼んだ。
「ちぃーちゃーん!」
「何―?」カイトが叫ぶと、厨房から怒鳴り声に近い乱雑な声が響いた。
「チカの体育大会行く?」
カイトが聞くと厨房が静かになり、白いエプロンをつけたおばさんがホールに顔を出した。
「なんだい?チカ。体育大会があるなんて聞いてないよ」
「もー、あー。もう!カイトマジでうざいわ。」
俺が頭を抱えてカイトを責めても、
「世話になってるんだから、おばさんに心配かけんなよ」
その一点張りだ。だけど俺としても、もうこれ以上親戚でもないおばさんに迷惑をかけるわけにもいかない。
体育大会は今週の土曜日で、もし来るとなると土曜の昼に店を開けることになる。普段からおばさんに世話になりっぱなしな上、おばさんにそこまでしてもらう義理はないのに。
「ちいちゃん行く?」
「来なくていいっ…」
俺の声に被せるように、おばさんは四人に聞いた。
「何?あんたたちも来るの?」
すると、センは前のめりに答えた。
「行く!行く!な?レオも来るよな?」
「ええ?俺も行くの?」
急に話を振られて驚くレオにお構いなしに話が進む。リュウはレオをたしなめるように言った。
「そんなこと言うなよ!レオ。チカが寂しがるだろ」
「俺は一回も来てほしいなんか言ってないから」
「俺らもチカの保護者だろ?な?いいだろ?」
センがまた調子のいいこと言い始めた。
「お前に保護された覚えはねぇよ。どっちかって言うと俺がお前の保護者だろ」
「もうー照れちゃって」
「チカが何て言おうと俺は体育大会にちぃちゃんつれていくからな」
カイトの一言に俺は、完全敗北を認めるしかなかった。