エレベーターホールでエレベーターを待っていると、後ろから遅れて先生がやって来た。

「学校は?最近どう?」
「最悪ですよ。お昼休み以外は」


なんて正直に言えちゃうのも先生にだけ。

こんなこと言っても全部、
気持ちよく笑い飛ばしてくれる。
それが分かってるから先生には安心してなんでも言えた。

「お昼休みは何してるの?」
「お弁当食べたり、音楽聞いたりですかね。」
「何聞いてんの?」
「クラシックです」

こういう会話は他の人と何度かしたことがあった。

そのたびにクラシックと言うと、
薄いリアクションと沈黙の時間が訪れていた。

沈黙への覚悟が追い付く前に先生は意外なリアクションを取った。


「えー俺も、結構クラシック好きなんだよね」

心の底からうれしさがあふれるように混みあがってきた。


「私、そんなに詳しくはないんですけど、ピアノの曲が好きで。特に月の光っていう曲が…」

「ああ、それなら俺も聞いたことあるよ、俺もドビュッシーが好きなんだ!」

「分かります?」
「うん」

こんなくだらない話が楽しいなんて、
先生がきっと聞き上手だからだ。



だけど、なんとなく佐倉咲のことは先生には言わなかった。