開店時間になっても、
この時間帯にはまだ、お客は誰も来ない。
カイトは4人の定位置と化した厨房から1番近いテーブル席に1人で座り、スマホを見ている。
店の中は暫く、おばちゃんが選曲したウクレレの曲だけが堂々と店内を支配していた。
すると、カイトが思い出したかのように口を開いた。
「なぁ、チカ
写真見てセンと言ってたんだけどさ、
シンデレラが着てたブレザー。チカのに似てね?」
「あの写真、画面暗かったし
見間違いじゃない?」
カイトの声に誘われて、
厨房からカイトの席まで歩いていく。
「でもさ、ほらここ!見てみ」
椅子に座ったカイトのスマホを覗いた俺は、
言葉を失った。
襟の角度が、うちの制服とそっくりだったのだ。
「ま、でも、この辺りの高校生とは限らないか」
俺がそう言ったのを聞いて、
カイトはスマホの電源を落とそうとした。
その刹那、頭の中で何かが引っかかった
俺はカイトの手首を掴んだ。
「待って」
「どうした?」
「こいつ、知ってるやつかもしれない」
「はああ????」
その時、ザァーーーー!と雨音が外から聞こえ、
二階からドスドスと階段を駆け下りる音が聞こえ
おばちゃんが店に顔を出して言った。
「チカ!雨降ってきたから、店の看板、屋根の下に置いてきて!」
切羽詰まったおばちゃんの声に
「はーい」と返事をすると、
雨の中、
道に出していたメニューの看板を避難させに外へ走った。