「どうして、こんなところで食べてるの?」
なんて、突然現れた彼女には聞きづらい。

何だか訳がありそうだし、
他人の面倒ごとに関与しても、巻き込まれて面倒になるのが関の山だ。

けれど、彼女がいること自体は不思議に不快ではなかった。

一人になりたくて、ここに来ているはずだったのに。
私が階段に腰かけると、彼女は私の一段下に腰かけて、長い脚を投げ出した。
小鳥が遊びにちょこんとやって来る、そんな自然さだった。

彼女が放つこの心地よさは嵐の前の静けさだったのかもしれない。

「先輩って確か、田中先輩と同じクラスですよね?」
「うん、そうだけど?」


昔話と噂話はしたくなかった。


噂に翻弄されるような人間になりたくなかったから。

「田中先輩ってどんな人ですか?やっぱりちょっと怖いとか?」
「全然!噂は噂だよ。きっと誰かが悪ふざけで流してるんだと思う」

「彼女さんにも秘密があったりして」
佐倉咲のグレーがかった瞳の奥がきらりと光った。
「どういうこと?」

「いや、何でもないです!」
「もしかして、私と田中君が付き合ってるってのも、鵜呑みにしてない?あれもただの噂だよ?」

「え!!違うんですか!」
「でしょ?だから、田中君のことも噂なんだよ。
誰が流したのかは知らないけど。」

一息に言うと、佐倉咲の横顔は先ほどまでの勢いを失った。
そして、ふわふわした口調でサラリと言った。

「まぁ、いい気味ですよね。
みんな嘘の噂に踊らされてるんだ。なら先輩、私もですよ」