「ああ、やるよ、やる、やる」

じいさんが両手をヒラヒラ振りながら厨房へ向かった。
すると、ばあさんに両手で肩をトンと押された。

「あんたは今お風呂いれたから入りなさい」
「え?」

そして俺は、ばあさんに押されるまま店の奥に連れていかれ、木の床の廊下を歩いた。
床は足で踏む度にミシミシと音が鳴った。

ガラス戸の前に来ると、ばあさんがその戸を引いた。

戸の滑りが悪いからか、
ガラス戸を引くとバババンバンと、ガラスと木の枠が当たる音がした。

青いタイルが貼られた古めかしい風呂に、あれよあれよと押し込められ、気がつけば俺は、じいさんと同じ匂いのする、ブカブカの服を着ていた。

風呂から上がって店の方の様子を伺うと、
店のテーブルに大量のタッパーに入った、さまざまなオカズが並んでいた。

「こんなにあるんだけど、食べられる?」

そう言って眉毛をハの字にするばあさんが余りにも自然で、親戚かと勘違いしてしまいそうだった。

「いや、あの、全然大丈夫っす」

勧められるままに、椅子に座り
そばに置いてあった箸を掴んで、
1番近くの唐揚げに夢中でかぶりついた。

他にも酢豚、野菜炒め、餃子、肉団子…と、
どんどん手を付けていく。

久しぶりの飯に体が驚いたのか、
食べている最中に何度も、むせてしまった。

すると、俺が咳き込む度に、ばあさんは背中を優しく撫でて。

「あんた、そんなに腹が減ってたんだねぇ」と言った。

そしてついには、じいさんとばあさんに見守られる中、タッパーに入っていたオカズをペロリと平らげてしまった。


空っぽになったタッパーを見て、ジイさんは眩しげに俺を見た。


「いい食いっぷりだねぇ、あんた名前は?」