「違うよ、残り物を食べてくれそうな人探してるんだよ」
ばあさんは優しい瞳で言った。
「え?」
「最近不景気だからか、お客さん減ってしまってね。それなのに、昔の癖で沢山作りすぎちゃうのよ」
ばあさんが困ったように笑った。
「作り置きしてるんですか?」
思ったことを言うと、
途端におばさんの目は黒々とした光を帯びた。
「あっ、お客さんには秘密よ!タダで食べさせてあげるんだから!もし誰かに言ったら無銭飲食で警察に突き出すからね!」
なんだこのばあさん、油断も隙もねぇな。
そう思った時、ジイさんが店の奥から顔を出した。
黄色のバスタオルを右手に持っている。
「ちーちゃんこれかい?」
「そっちは景子ちゃんのだよ!もう!
あんたに何か頼んだら手間取るだけだねぇ!」
そう言ってばあさんはあたふたするじいさんから、
黄色のバスタオルを引ったくった。
しっしっ!と動物を追い払うかのように、手を横に払ってジイさんを追い払い、ばあさんは店の奥に突き進んでいった。
「景子ちゃんって誰っすか?」
ばあさんからぞんざいな扱いを受け、元から刻まれていた眉間のしわを、さらに濃く深くしていたじいさんに聞くと、途端にデレデレした笑顔になった。
「ああ?景子ちゃんか?うちの娘だよ、
可愛いんだよ〜見るかい?」
じいさんはガラケーを胸ポケットから出して、
画質の荒い画像を顔に突きつける。
意外な写真に、反応に困った。
そもそも、知らない人を見せられた所で、どんな反応をしたらいいのかも分からない。
それは、かなり前のプリクラの画像だった。
「どうだい、可愛いだろ?」
時代を感じるメイクの女の人が2人写っていた。
下の方にはケイコと「FREDND」とスタンプが貼ってある。
隣にはキヨミと書いてある。
ケイコの友達だろうか。
「あんた!何くっちゃべってるんだい!
その間にそうじでもしなさいよ!」
ばあさんのよく通る声が後ろから降ってきた。