激しく降りしきる雨の中、
力尽きた俺は、もうどうでも良かった。

薄汚れた白いシャッターにもたれかかる。

背中、頭、そしてそのまま、しゃがみこんだ。

シャッターに身体が当たると
雷が鳴ったような大袈裟な音がしたが、

そんなのも、どうでも良かった。

無地のトレーナーの背中がボーダーになることも、
地面が土埃と油で汚れていることも。

足に降りかかる雨は

申し訳程度の屋根のせいか、
吹き込む風が強いせいか、その区別もつかない。

シャッターの前でしばらく、
足を投げ出し座り込んでいた。

すると、突然、

綺麗に禿げ上がったジジイが
向かいの古びた中華料理店から出てきて、
俺にビニール傘をさした。


「坊主!うちで雨宿りしていきな」

もう誰にも世話にならないと決めた直後で、
俺はジジイの言葉を無視して座り込んだ。

それでも、この禿げジイさんは
自分が濡れるのも構わずに、

俺に傘を差して突っ立っていた。

「坊主、腹減ってるだろ!飯だ!飯!
タダ飯食わせてやるよ」

その言葉に、ジイさんの目を下からじっと見た。

今の俺は、
そんな怪しい言葉の誘惑にも
簡単に振り切って逃げることが出来る。

しかしその時の俺は、飯が胃を満たすという、
人間が太古から抱いていた夢を
獣のように求めていた。

ジイさんの引っ張られるままに、
赤いテント屋根のついた「中華料理 北斗軒」
に連れ込まれた。